研究課題/領域番号 |
16H02437
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研究機関 | 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
下山 巌 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 先端基礎研究センター, 研究主幹 (10425572)
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研究分担者 |
奥村 雅彦 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, システム計算科学センター, 研究主幹 (20386600)
小暮 敏博 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (50282728)
町田 昌彦 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, システム計算科学センター, 研究主席 (60360434)
馬場 祐治 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 先端基礎研究センター, 嘱託 (90360403)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | セシウム / 除染 / 汚染土壌 / 熱処理 |
研究実績の概要 |
添加剤の選択は熱処理による土壌除染の最重要因子の一つである。昨年度までに風化黒雲母(WB)を模擬土壌とした塩化物と硝酸塩試薬に対する調査を行い、Ca(NO3)2添加の場合、500℃での大気下での熱処理で蛍光X線分析による検出限界以下までCsが減少した事を明らかにした。この結果は本研究の目的である「500℃以下でのCs除去」の可能性を示したため、今年度は福島汚染土壌を用いた試験を行った。Ca(NO3)25水和物を重量比10倍添加し、500℃の大気下の熱処理と水洗浄を行った。この試薬は処理後に難溶性の消石灰を生成するため、希塩酸で消石灰を除去した試料についても放射能測定を行い、除染率83%が得られた。800℃で高い除染率(約97%)を示すCaCl2も500℃では約10%となり、硝酸塩の低温での有効性が実土壌の除染試験でも確認された。しかし400℃での除染率は約18%に低下した。WBを用いた模擬試験では450℃以上で黒雲母の分解と主にlarniteへの相変態が進行したため、土壌中でCsを保持する粘土鉱物の相変態がほとんど進行しなかったことが400℃での除染率の低下の原因であると考えられる。以上の結果は試薬の効果が対となるアニオンに大きく依存することを示しており、我々はさらにフッ化物試薬の検討を進めた。CaF2はほとんど効果が無かったがKFは低圧下で有効に機能し、KFを同重量比添加した場合737℃で約88%の除染率が得られた。しかしこの試薬でも600℃以下ではCs除去能が低下し、処理温度の低減化には繋がらなかった。そこでより低温での分解が期待できるフッ化水素酸塩試薬の検討を行った。重量比約3倍のKHF2添加では300℃のAr置換熱処理と水洗浄を行ったところ約93%の高い除染率が得られた。この結果はKHF2が処理温度の低減化の点においては硝酸塩よりも有効であることを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
熱処理の課題の一つである処理温度の低減化については前述のKHF2を添加剤に用いることで目標である「500℃以下でのCs除去」の実現に近づいた状況と言える。しかしKHF2は有害なフッ酸発生により環境負荷の面で課題があるため、この点では塩化物試薬は依然として重要な添加剤である。一昨年度までに熱処理による除染には2種類の過程があることを明らかにした。CaCl2やMgCl2添加の際は主に粘土鉱物の分解と相変態を通してCsを除去するが、KClやNaCl添加では粘土鉱物からのイオン交換によるCs除去が主であり特に低圧条件で高い除染率を示す。さらにCaCl2添加時も反応の初期過程ではイオン交換によるCs除去が生じ、Ar雰囲気ではその効果が大気下よりも大きくなることを見いだした。しかしこれらの2種類の過程を支配する要因については系統的データの不足により未解明の部分が多い。このためまずは試薬、温度、雰囲気に依存した放射能濃度の変化とXRDを用いた粘土鉱物の分解の程度を精査することでこの二つの過程の反応速度の違いを調べる必要があり、昨年度後半から取り組んでいる。既にCaCl2については700℃と800℃におけるデータについてはある程度取得し、雰囲気と温度依存性の検討を進めているが、より重要なのはCaCl2と全く異なるCs除去過程を示すNaClとの比較である。NaClは海水を利用した除染に繋がるため、コスト面と環境負荷の面では他の試薬よりも大きな利点があり、さらに土壌中の粘土鉱物相をある程度保持しながら除染できるという点からも重要な試薬である。このため、NaCl添加時の800℃の大気・Ar置換・低圧条件での熱処理における反応速度解析を進めている。既に低圧下での800℃の熱処理についてはある程度データを取得しており、今後大気とAr置換条件についても順次調べる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究方針は4つに大別されそれぞれ以下の通りである。 1.風化黒雲母(WB)を模擬土壌とした研究:模擬土壌を用いた試薬探索では昨年度までに塩化物、硝酸塩、フッ化物、フッ化水素酸塩について調べた。今年度は対象を絞り、主にNaClによるCs除去メカニズム解明に取り組む。既にNaClに関してはイオン交換を通じてCsが除去されることとその作用が低圧環境で促進されることを明らかにした。その原因を調べるため、高温XRD測定によりWBの底面反射ピークシフトのその場観察を大気、Ar(窒素)置換、真空条件で行う。 2.実汚染土壌を用いた除染:汚染土壌を用いた除染試験に関してはCaCl2もしくはNaClを添加した場合の除染率の処理時間依存性を調べると共に、熱処理後の土壌中の粘土鉱物相の分解挙動についてもXRDを用いて調べ、大気、Ar置換、真空条件でのイオン交換と相変態の反応速度論解析を進める。これによりイオン交換によるCs除去の試薬依存性について定量的な比較を行う。また、KHF2添加した場合の熱処理の最適化により本研究の目標「500℃以下でのCs除去」を実現する。 3.理論的アプローチ:熱処理後にWBが完全に分解・相変態してもCsが残留するようなケースでは、生成された鉱物中がCsを固溶していることが考えられるため、熱力学的計算により生成物の構造安定性を検討し、生成物がCsを取り込む原因について検討する。 4.生成物の光触媒機能付与の研究:セシウムフリー鉱化法の特徴の一つに生成物に機能性付与することによる再生利用の促進を狙いの一つとしている。既に昨年度WBにCaCl2を添加した場合の生成物に対して紫外光照射によるCr(Ⅵ)→Cr(Ⅲ)還元に関する光触媒活性を持つ予備的なデータを得ており、さらに他の試薬と反応させた場合の生成物について同様の光触媒活性に関する検討を進める。
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