研究課題
熱処理による土壌除染では石灰や塩化物等の反応剤を添加することで除染効率が向上するが、個々の反応剤の作用の詳細は不明な点が多い。NaClはコスト面と環境負荷面における利点により有望な試薬の一つであり、高温真空中で粘土鉱物中のCsとのイオン交換を促進し、従来の熱処理よりも低い処理温度(~800℃)での土壌除染を可能にすることを昨年度までに明らかにした。この反応は大気中では抑制され、低酸素分圧の1気圧のAr雰囲気中ではわずかに促進されるが、これらの違いの原因は不明である。そこで今年度は高温でのイオン交換が真空中で促進されるメカニズムについて主に調べた。熱重量示差熱分析により、NaClは大気中では融点(801℃)以上にしないとほとんど気化しないのに対し、真空中では600℃以上で昇華し800℃付近ではほとんど気化することがわかった。このため、NaClの気化による拡散速度の増大が真空の効果の一つとして挙げられる。さらに、高温でのX線回折その場観察により、昇温中の粘土鉱物の層間距離がイオン交換に影響することを見出した。非放射性Csを収着させた風化黒雲母(WB)粉末を模擬汚染土壌として用い、NaClを添加したWBの層間距離の加熱中の変化を調べたところ、600℃以上で昇温時の層間距離の急激な減少が観測された。この結果はイオン交換が昇温中に生じたことを示している。さらに500℃付近で層間距離が一旦大きく拡張した後にイオン交換が始まることがわかった。一方大気中では500℃付近で層間距離が真空中の半分以下までしか拡張されず、窒素雰囲気は真空と大気の中間の層間距離の拡張を引き起こした。これらの結果は、昇温時の粘土鉱物の層間距離の拡張がその後のイオン交換を促進することを示唆しており、真空中ではこの効果が最も大きいことで除染効率が向上したと考えられる。
令和2年度が最終年度であるため、記入しない。