研究課題/領域番号 |
16H02446
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
永井 康介 東北大学, 金属材料研究所, 教授 (10302209)
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研究分担者 |
井上 耕治 東北大学, 金属材料研究所, 准教授 (50344718)
外山 健 東北大学, 金属材料研究所, 准教授 (50510129)
吉田 健太 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (10581118)
清水 康雄 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (40581963)
南雲 一章 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (40719259)
西山 裕孝 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 安全研究・防災支援部門 安全研究センター, 研究主席 (60414596)
勝山 仁哉 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 安全研究・防災支援部門 安全研究センター, 研究副主幹 (00403155)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | トモグラフィー / 元素分布 / 微小欠陥分布 / 照射欠陥 / 原子力材料 / 3次元アトムプローブ / 透過電子顕微鏡 |
研究実績の概要 |
本研究では、世界に先駆けて「微小欠陥-元素分布トモグラフィー(同一試料に最先端の透過電子顕微鏡(TEM)-3次元アトムプローブ(3D-AP)を組み合わせて、照射欠陥構造と不均一な元素分布をサブナノメートルの分解能で3次元空間に同時マッピングする方法)」を開発し、これを用いて原子炉の安全性に直結する構造材料の未だ解明されていない新しい照射劣化機構を解明することが目的である。H28年度は、以下の成果を得た。 1. 微細な欠陥と析出物の双方が高密度に存在する欧州加圧水炉実機の10^20n/cm^2 を越える照射量の監視試験片から、上記、微小欠陥-元素分布トモグラフィー法の針状試料の作成に成功した。 2. 針状に加工した試料から、TEMの電子プローブを用いて、投影断面定理に従い360度傾斜あらゆる角度の投影データを取得、逆投影法を用いて物体の3次元構造復元を行う方法論を確立した。さらに、今年度導入した「回折プローブ選択投影装置」により、従来法よりも偽像の少ない高精度なトモグラフィーを実現した。 3. 上記の微小欠陥のトモグラフィーを行った試料に対して、元素分布(不純物・溶質原子の析出や偏析)のトモグラフィーを3D-APによって行い、これら二つの3次元像を重ね合わせることで「微小欠陥-元素分布トモグラフィー」の手法を完成させることができた。 4. 微細組織変化と機械的特性の関連を対応づけるため、機械的特性試験(硬度の温度依存性の測定(-100℃~200℃程度)など)の最適条件探索を行った。また、上記の対応関係を第一原理計算や分子動力学シミュレーションなどを通して明らかにするために、計算機コード開発の準備を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の予定していた計画、特に、「微小欠陥-元素分布トモグラフィー」は当初予定通り、手法として完成させることができた。それに加えて、本手法の開発の過程で、原子炉圧力容器鋼の監視試験片中で、従来の報告に比べて一桁以上高い数密度で微小な転位ループが形成されることを明らかにした。これは、照射脆化が従来考えられているメカニズム(溶質原子クラスター形成による硬化)だけでは説明できず、微小な照射欠陥が脆化に寄与していることを示す世界初の直接的な証拠であり、原子炉の健全性にとって極めて重要な発見である。
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今後の研究の推進方策 |
H28年度に手法として確立したので、今後は以下の点に焦点をおいて研究を進める。 (1)圧力容器鋼の照射脆化機構の研究のため、実機監視試験片を含めた照射試料の準備を行い、上記の開発した手法を用いて分析する。具体的には、①我々が所持する様々なタイプの圧力容器監視試験片を調べることにより、実機で起きている変化を明らかにすること、特に、従来の顕微鏡では見えなかった微細な転位ループ等の欠陥集合体と、不純物・溶質原子-転位の複合体の存在を実証すること、②機械的特性に影響を与える因子(照射速度、温度、Cu等の不純物濃度)を制御した試験炉照射試料を系統的に調べることにより、実機で起きている変化の原因を推定すること、③照射後に焼鈍回復させた試料の分析を行うことで複数の因子を分離して判別することである。なお、試験炉照射試料としては、JMTR停止前に照射した様々な試料を活用するとともに、最近のベルギー研究炉BR2を用いた照射試料を用いる。 (2)機機械的特性試験、計算機シミュレーション、脆化因子の解明:H28年度で準備した硬度温度依存性測定を行うとともに、第一原理計算・分子動力学シミュレーションにより、転位の運動に対する阻害因子候補を明らかにする。最終的に、微細組織変化と機械的特性の関連から、実機材料の脆化因子を明らかにする。 (3)他の材料への適用:圧力容器オーバーレイクラッド、燃料棒支持板ステンレス鋼など現在用いられている材料の照射劣化機構の研究だけでなく、F82H等の次世代炉への適用が期待されている材料の照射損傷機構にも適用し、「微小欠陥-元素分布トモグラフィー法」の適用範囲を広げる。
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