研究課題/領域番号 |
16H02447
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
佐々木 隆之 京都大学, 工学研究科, 教授 (60314291)
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研究分担者 |
佐藤 修彰 東北大学, 多元物質科学研究所, 教授 (70154078)
桐島 陽 東北大学, 多元物質科学研究所, 准教授 (00400424)
小林 大志 京都大学, 工学研究科, 助教 (80630269)
秋山 大輔 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (80746751)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 燃料デブリ / アクチノイド / 核種溶出 / 放射性廃棄部処分 / 処理プロセス |
研究実績の概要 |
福島原発事故で発生したアクチノイドを含むMCCI(Molten Core Concrete Interaction)デブリの合理的な最終処分の提案に向けた基盤研究として、模擬デブリを調製し、模擬デブリ固相の性状と核種の溶出性の関連を明らかにするとともに、発生したデブリの安定化処理を提案することを目的としている。デブリの耐酸化性、耐腐食性を向上させる固溶体安定化剤を添加した模擬廃棄体を、酸素雰囲気や加熱温度を制御することにより種々調製し、デブリ中アクチノイドや核分裂生成物の地下水に対する耐溶出性を評価することで、処理の妥当性や必要性を検討する。本年度、MCCIデブリの高温における反応挙動について、異なる雰囲気(酸化的および還元的)や加熱温度(最高1600℃)に対する燃料とセメント構成成分等(UO2:CaO=1:1, UO2:CaO:SiO2=1:1:1)との反応を調べた。さらにマイナーアクチノイド(MA)および核分裂生成物(FP)トレーサを添加した模擬デブリを調製し、人工海水および純水への溶出試験を行い、それらの条件が核種溶出率に及ぼす影響を評価した。公表された1F汚染水中のアクチノイド濃度分析値を、燃料の核種インベントリおよび実験で得た模擬燃料デブリからの核種溶出率から推算される放出放射能量と対比するモデルを考案し、冷却水へのアクチノイドの溶出がウランの溶出と調和的であることを見出した。さらに、真空型多重反射フーリエ変換赤外分光(ATR-FTIR)装置を設置調整し、模擬燃料デブリ表面のウラン等の酸化状態や収着反応を評価するための準備を整えた。微量アクチノイドの溶出・溶存状態分析を行うに先立ち、天然水中のアクチノイド分析を予察的に行い、得られた結果の熱力学的な解釈を試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
MCCI模擬デブリとして、ウラン酸化物又はウラン-ジルコニウム酸化物とコンクリート成分の固溶体を種々の条件(Ar+2%O2およびAr+10%H2、1200~1600℃)で調製することに成功した。得られたデブリ試料の相関係を評価するためX線回折測定を行った。還元雰囲気では概ねUO2相が安定であり、コンクリート成分はCaSiO3やSiO2の揮発に伴ってCa2SiO4を生じた。酸化雰囲気では構成成分のUO2相への固溶限度が高まり、温度上昇とともに固溶体であるCayU1-yO2+x相や(Ca,Si,U)O2+x相を形成する傾向を見出した。また、一部の試料について、SEM-EDX法による試料観察を行い、各相における元素分布を評価した。その後、溶出率を評価するための試料内への核種(85Sr/137Cs/152Eu/237Np/241Am)の導入はトレーサ添加法により行った。例えばUO2:ZrO2:CaO:SiO2=1:1:1:1を還元雰囲気で加熱処理して調製した模擬デブリでは、1か月後のUの溶出率は0.1%以下であり、人工海水および純水で大きな差異は見られなかった。なお、熱中性子照射法によりMCCI模擬デブリ中に核種を導入するため、試料を石英管に封入し、京大原子炉に移送する準備を整えた。MCCIデブリ表面の二酸化ウランが大気平衡にある人工海水と接した際、表面のウランが4価から6価へ酸化されることをATR-FTIR法により観察した。この予備検討結果により、ウランと他核種の溶出挙動の相関を評価しうる可能性を見出した。また、溶液中の微量アクチノイドの予備濃縮および質量分析法を確立した。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の浸漬実験および固相分析を継続するとともに、その知見・成果をもとに新たな条件での模擬燃料デブリを調製し、より安定なデブリ固相を模索することで、MCCIデブリの処理法提案を目指していく。次年度は、中性子吸収効果のあるホウ素について、特に酸化ホウ素等を用いた固相の安定化について検証する。模擬燃料デブリと酸化ホウ素とを反応させ、生成相の相関係や変態、融点等の熱的特性を評価する。浸漬実験で得る核種溶出率はウラン溶出率で規格化し、その時間依存性(~1年程度)、液性依存性(pHやEh、Ca濃度の変化等)を評価する。さらに、液相のろ過フィルタ孔径依存性等から、溶出した核種のコロイド存在状態について調べ、見かけの溶解度との関係を熱力学的に考察する。固相分析はXRD法やSEM-EDS法に加え、熱重量-示唆熱分析により熱的安定性や反応性を評価する。なお溶解反応を理解するため、引き続きATR-FTIR法および質量分析法によりデブリ表面のウラン等の化学状態を検討する。以上本研究課題において、これらのMCCIデブリからのアクチノイド溶出研究成果を取りまとめるとともに、MCCIデブリの直接処分に際しての処理の適用可能性、およびその方法について総括していく予定である。国の廃炉計画・方針の策定や1Fでの廃炉活動の進展、国内外の諸機関で成される研究開発の最新成果を取り入れた検討を行う。
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