研究課題
超伝導中性子検出器を超伝導転移温度付近での動作させることが検出効率を高めるために有力であることを明らかにした前年度の成果を受けて、超伝導中性子検出器CB-KIDの動作温度を超伝導転移に近づけて中性子照射実験を行った。その結果、①信号の伝搬速度低下によって空間分解能が上昇すること、②検出器の信号強度が増大すること、③検出器の検出効率が上昇することが明らかになった。動作温度を超伝導転移温度に近づける条件の基で、GdAl3単結晶がAlフラックス中に多数析出した試料の中性子透過像の測定を行い、微細な単結晶が析出している様子の観察に成功した。CB-KID読出回路の改良に関しては、パルスレーザーを用いたアナログ回路の時間分解能を実験で定量的に評価した。その結果、現行の読出回路と比べて、時間分解能が30%~50%改善できることを確かめた。また、読出回路の温度環境を安定化させるためのシステムを試作してその効果を評価することができた。CB-KID動作の学理に関して、中性子検出に利用する核反応発生熱の素子内拡散ダイナミクス解析と時間依存Ginzburg-Landau理論を用いた信号波形を説明する理論を構築し、パルスレーザー照射で期待される信号のシミュレーション波形と実験報告と比較することができた。超伝導を利用する電流バイアス運動インダクタンス検出器の検出素過程を分析するため、デバイスへの中性子入射、中性子核反応、核反応生成粒子通過による熱付与と検出段階の理論解析手法の開発に取り組んだ。実際、中性子入射束、中性子核反応、及び、核反応生成物の運動について、モンテカルロ・シミュレーションコード(PHITS)を用いたシミュレーションを実施した。その結果、中性子束の入射、伴い発生するイベントの追跡、検出に至る素過程を調べることで、検出効率の中性子波長依存性、検出器空間分解能等の評価を行うことができた。
2: おおむね順調に進展している
分子線エピタキシー(MBE)法によりボロン10を超伝導検出器上に蒸着することで、CB-KID検出器の全有感領域にわたって均質な中性子転換層を成膜することができた。これによりイメージング試料を取り外して得たダイレクトビーム像を用いた補正を行わなくても像の乱れの少ない中性子透過像を得ることができるようになった。検出器の温度を超伝導転移温度に近づけることで、空間分解能を上昇させること、信号強度を増大させること、中性子検出効率を向上させることができた。また、中性子検出効率の波長依存性を調べて、PHITS法によるシミュレーションと比較することができた。CB-KID読出回路の改良に関しては、アナログ回路をパルスレーザーによる時間分解能評価を行い、時間分解能を30%~50%改善することができた。また、安定動作のために読出回路の温度環境を安定させて評価した。CB-KIDの動作原理に関しては、時間依存Ginzburg-Landau理論を用いて、信号波形を説明する理論を構築し、この検出器が中性子だけではなく、もっと広範囲のいろいろな放射線(粒子線)の検出にも応用できる可能性があることを示すことができた。中性子束の入射、中性子核反応と生成粒子の素子内周辺への飛散、素子内に付与される運動エネルギーによる発生熱を放射線輸送モンテカルロコード(PHITS)を用いてシミュレーションすることに成功した。
超伝導検出器上に蒸着する中性子転換層10Bの膜厚を厚くするときの生成膜の安定性の条件だしが必要であることが分かった。今後は、できるだけ転換層を厚くすることで中性子検出効率を更に向上させることを目指す。重元素金属中に析出した軽元素結晶の中性子透過像の撮像など、X線透過像では分析が難しい試料に対しても、本研究で開発している超伝導中性子検出器システムでは中性子透過像で明らかにできる可能性を追求するなど適用する試料の範囲を広げて、本検出器システムの有用性を実証することに取り組む。また、中性子検出器の動作温度を最適化する試みを継続し、系統的な条件だしに取り組む。そのために、検出器の動作温度を安定化させることが大切であり、温度制御系の改良など計測系の最適化に取り組む。高空間分解能を目指した読出回路のアナログ基板の改良の進展に続き、デジタル基板の時間分解能の改善に取り組む。また、読出回路のデジタルデータの集録とPC内の記憶メディアへの保存を行い、オンラインで保存データにアクセスして解析・表示できるプログラムの開発にも取り組む。検出器動作原理の解析として、中性子核反応により発生する熱等のダイナミクスのシミュレーションを高度化し、実際の検出器の内部プロセスを模擬できるようにし、検出器素子の設計の最適化に役立てることを試みる。
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