研究課題
ショウジョウバエもヒトと同様、加齢による長期記憶障害(LTM-AMI)が現れるがそのメカニズムは良く分かっていない。我々はこれまでの研究から加齢体では、長期記憶(LTM)学習により細胞接着因子Klgを介した神経ーグリア相互作用により誘導されるグリア特異的な転写因子Repo依存性のグルタミン酸トランスポーター(deaat1)遺伝子の発現上昇が障害され、LTMが抑制されることを遺伝学的手法により明らかにしてきた。しかしLTM-AMIの実体については、LTMの形成、保持、想起のどの過程が障害されるのか依然として不明となっていた。長期記憶情報は長期記憶学習で活性化した神経細胞が記憶痕跡細胞となり分散コードすること、想起過程ではこれら記憶痕跡細胞が再活性化され記憶想起が起こることが示されている。そこで記憶痕跡細胞のマーカーとして、長期記憶学習により発現するc-Fosを、また再活性化による神経活動のマーカーとしてリン酸化ERK(pERK)を用いて、嫌悪性匂い条件付け課題で長期記憶学習から想起に至る過程を若齢体と加齢体で調べた。その結果、加齢体も若齢体と変わらず長期記憶学習後に記憶痕跡細胞が形成された。一方想起時は学習した匂いに対して再活性化されるだけで無く、学習していない匂いに対しても活性化され、記憶情報の汎化が加齢体で起こることが示唆された。嫌悪性匂い条件付け課題では学習した匂いに対して逃避行動が起こる。先の記憶汎化の可能性を検討するため、若齢体と加齢体で嫌悪性匂い条件付け課題で長期記憶学習を行い、匂いに対する逃避行動を調べたところ、予想通り、学習した匂いに対してだけで無く、学習していない匂いに対しても逃避行動が誘発された。以上の結果からLTM-AMIの実体は長期記憶形成で無く記憶汎化を起こす記憶保持・想起過程の障害であることが示唆された。
平成30年度が最終年度であるため、記入しない。
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