研究課題/領域番号 |
16H02463
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
林 純一 筑波大学, 生命環境系(名誉教授), 名誉教授 (60142113)
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研究分担者 |
米川 博通 公益財団法人東京都医学総合研究所, 基盤技術研究センター, 特任研究員 (30142110)
高橋 智 筑波大学, 医学医療系, 教授 (50271896)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | mtDNA突然変異 / がん転移 / ヒト老化の可逆性 / shmt2遺伝子破壊マウス / 自己免疫疾患 / 自然免疫 / マウス内在性ウイルス |
研究実績の概要 |
A1: MELASモデルマウスの作製:一昨年度作製したキメラマウスの交配からミトコンドリア病3大病型の一つであるMELASモデルマウスの樹立に失敗したため、現在ES細胞を樹立し直している。 A2:「がん転移mtDNA原因説」の普遍性検証:ヒトで転移しやすいがんを持つ患者さんのがん組織のmtDNA塩基配列を決定したところ、mtDNAに存在するND遺伝子に高頻度で突然変異が認められたことから、申請者が以前提出した「がん転移mtDNA原因説(Science 2008)」がヒトのがん転移にも当てはまるという普遍性の検証に成功。*この研究成果はSci Rep 7: 15535, 2017に掲載された。 B1: 老化原因因子の特定:申請者は以前ヒトの老化に伴う呼吸欠損の発現は核ゲノムに存在する二つの遺伝子(Shmt2とGcat)の可逆的な発現抑制であることを突き止めた(Sci Rep 2015)。そこで今回、これらの遺伝子を破壊したマウスを作製したところ、予想通りShmt2破壊マウスで胚性致死が誘発され、しかもこの胎児から樹立した繊維芽細胞(MEF)は呼吸欠損と細胞分裂不全を示した。*この研究成果はSci Rep 8: 425, 2018に掲載された。 B2: 拒絶反応因子の特定:申請者は以前マウスB6系統のがん細胞株に、老化モデルマウスであるSAMP1のmtDNAを導入したサイブリッドは、B6マウスでの腫瘍形成が自然免疫系の認識により阻害されることを報告した(J Exp Med, 2010)。このことは、mtDNAの遺伝子産物が細胞表面にも存在するという常識はずれの可能性を示唆していたが、本年の研究成果によりその正体はmtDNAの遺伝子産物ではないことが証明された。*この研究成果はBBRC 493: 252-257, 2017に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
A1: MELASモデルマウスの作製:研究期間内での目標達成は困難になった。理由は一昨年度までに樹立できたキメラマウスでは、ES細胞由来の生殖細胞が全く形成されていなかったためである。 これに対し、A1以外の研究課題(A2, B1, B2)は当初の計画以上に進展し、すでに以下の3本の原著論文を出している。 A2:「がん転移mtDNA原因説」の普遍性検証:この申請者の仮説が「ヒトのがん転移」にも当てはまることを発見し、この仮説の普遍性の立証に成功した(Sci Rep 7: 15535, 2017)。このためこの研究目標は完全に達成された。 B1: 老化原因因子の特定:ヒトの老化に伴う呼吸欠損を誘発する二つの核遺伝子を破壊したマウスの作製に成功し、そのうちの一つの遺伝子(Shmt2)を破壊したマウスでは胚性致死が誘発され、しかもこの胎児から樹立した繊維芽細胞(MEF)は呼吸欠損と細胞分裂不全を示した(Sci Rep 8: 425, 2018)。このためこの研究目標もほぼ完全に達成されたが、それでは胚性致死になる原因は何か、さらには老化を回避するサプリメントはあるのかという魅力的な研究課題が発生した。 B2: 拒絶反応因子の特定:申請者は以前マウスB6系統のがん細胞株に、老化モデルマウス系統であるSAMP1のmtDNAを導入したサイブリッドは、B6マウスでの腫瘍形成が自然免疫系の認識により阻害されることから、mtDNAの遺伝子産物が細胞表面にも存在するという常識はずれの仮説を提出した。しかし、今回の研究成果によりその正体はmtDNAの遺伝子産物ではないことが証明された(BBRC 493: 252-257, 2017)。このためこの研究目標もほぼ完全に達成されたが、それでは拒絶反応を誘発する細胞質遺伝する因子の正体は何か、という魅力的だが解決が困難な研究課題が新たに発生した。
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今後の研究の推進方策 |
A1: MELASモデルマウスの作製:一昨年度樹立したキメラマウスでは、ES細胞由来の生殖細胞が全く形成されていなかった。このためもう一度出発点に戻り、多分化能を保持したXO型ES細胞に突然変異mtDNAを再導入する。 A2:「がん転移mtDNA原因説」の普遍性検証:この研究目的は昨年度原著論文を発表したことで完結した。ただし、最後に高頻度突然変異mtDNAを保持するマウスがん細胞から高転移性クローンを分離しその原因もmtDNA突然変異かを解明する。 B1: 老化原因因子の特定:ヒトの老化に伴う呼吸欠損を誘発する二つの核遺伝子を破壊したマウスの作製に成功し、そのうちの一つの遺伝子(Shmt2)を破壊したマウスでは胚性致死が誘発された。しかもこのマウス胎児から樹立した繊維芽細胞(MEF)は呼吸欠損と細胞分裂不全を示した。このためヒトの老化に伴う呼吸欠損に少なくともヒトのSHMT2遺伝子発現低下が関与していることが証明されこの研究目的も完結した。ただし、老化に伴いSHMT2遺伝子発現が低下するヒト繊維芽細胞やShmt2遺伝子を破壊したMEFを、「老化を回避できるサプリメント」のスクリーニングに活用する魅力的な研究課題が生じたので最終年度はこの研究を推進する。 B2: 拒絶反応因子の特定:マウスB6系統のがん細胞株に老化モデルSAMP1系統のmtDNAを導入すると、このがん細胞株はB6マウスの自然免疫系により破壊されB6マウスでの腫瘍形成は拒絶される。今回その原因が少なくともSAMP1由来のmtDNAではないことが証明されたこの研究目的も完結した。しかし「拒絶反応を誘発する細胞質遺伝因子の正体は何か」という魅力的な研究課題が新たに生じた。最終年度はこの拒絶反応を受ける細胞と受けない細胞の間で「最新のプロテオーム解析」を実施し「拒絶反応を誘発する細胞質遺伝する因子の正体」を突き止める。
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