研究課題/領域番号 |
16H02465
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
高島 康弘 京都大学, iPS細胞研究所, 特定拠点講師 (70469930)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ヒトナイーブ型多能性幹細胞 |
研究実績の概要 |
着床前から着床期にかけての初期発生様式は、げっ歯類であるマウスと霊長類を比較した際、遺伝子制御と胚構造ともに異なる点があり、マウス以外のほ乳類を用いた初期発生研究も重要である。特に進化上ヒトに近い霊長類での解析はヒトの発生を知るために特に有用と考える。申請者が2014年に樹立したヒトナイーブ型iPS細胞は、着床前胚盤胞のエピブラストに一致し、今までできなかった着床前のより早期の初期発生研究を可能とした。この細胞を用いて、今まではアプローチできなかったヒト初期発生のメカニズムに迫る。胚盤胞内部細胞塊から着床後エピブラスト、原始内胚葉、臓側内胚葉へ分化していく発生過程を試験管内で構築し、明らかにする。 現在までにヒトナイーブ型多能性幹細胞を用いて、原始内胚葉細胞に近い細胞へと分化させることに成功した。本年度は、この細胞の誘導メカニズム、特徴、機能を明らかにし、ヒト原始内胚葉、臓側内胚葉にどれくらい近づいたかを解析した。 1)誘導した細胞の網羅的遺伝子解析を実施した。ヒトナイーブ型多能性幹細胞から誘導された原始内胚葉細胞は、網羅的な遺伝子発現を行った結果、既報のヒト胚の網羅的解析と比較し、非常に近い遺伝子発現を示すことが分かった。一方、ヒトプライム型多能性幹細胞からは、原始内胚葉には分化しないことが分かった。 2)誘導するメカニズムの解析を行った。シグナル解析を行い、BMPを最重要なシグナルとして同定した。転写因子GATA6をノックダウンすることで、誘導が阻害されることも分かり、GATA6がキイ遺伝子であることも分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒトナイーブ型から原始内胚葉への誘導とその誘導メカニズムも明らかにすることに成功した。プライム型から原始内胚葉は誘導できず、ナイーブ型独自の特性であることを明らかにした。誘導した原始内胚葉細胞もヒト胚の細胞にかなり近い遺伝子発現を持つことが分かり、ヒトにおける着床期発生を研究する素材を作ることができた。 また最終目標である試験管内での着床期初期胚の構築が進みつつあり、今後は原始内胚葉細胞の機能解析を進めることができる。目標であるエピブラスト細胞との共培養を目指し、試験管内で初期発生を構築する基盤も整い、研究は予定通り進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
1ヒトナイーブ型多能性幹細胞を用いた解析 ヒトナイーブ型多能性幹細胞を用いて、原始内胚葉細胞へ分化させることに成功した。RNAシーケンスの結果、ヒト胚と非常に近いことを示している。本年度は、論文として公表を目指す。1)誘導するメカニズムの解析に関し、GATA6のChIPシークエンスを実施した。本年度は解析を実施し、見つけたメカニズムの機能実験を行う。2)誘導された原始内胚葉細胞と着床後多能性幹細胞との共培養を行い、着床期初期発生を試験管内で構築する。 2マーモセット胚から多能性幹細胞の誘導 現在までにマーモセット胚からフィーダーフリープライム型多能性幹細胞の誘導に成功した。今後は胚盤胞内部細胞塊からどのようにプライム型多能性幹細胞が誘導されるのか、またナイーブ型多能性幹細胞と分かれて行く過程を明らかにする。1)樹立したフィーダーフリーマーモセットES細胞の維持シグナルとメカニズムを解析する。2)マーモセット胚からプライム型が誘導される過程の遺伝子の変化を解析し、マーモセット胚から多能性幹細胞株が樹立される遺伝子発現変化とメカニズムを明らかにする。3)上記で解析された結果を利用し、マーモセットナイーブ型多能性幹細胞の樹立を試みる。
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