研究課題
リネジ生存癌遺伝子TTF-1によって転写活性化されるROR1が、カベオラ構成分子のCAV1とCAVIN1のスキャフォールド蛋白質として機能して、カベオラの形成とカベオラに集積する様々な受容体からの生存シグナル維持に関与することを明らかにしてきた。今年度はさらに、ROR1が、CAVIN3と結合してカベオラ依存的なエンドサイトーシスを制御することを見出した。一方、ROR1とCAVIN3の結合は、CAVIN3の適切な細胞内局在に不可欠であるがカベオラ形成には影響を与えず、クラスリン依存的なエンドサイトーシスにも関与しないことも明らかとした。また、ROR1の肺腺癌発生における役割を個体レベルで検討すべく、Ror1コンディショナルKOマウスを樹立した。さらに、SP-Cプロモーターを用いて変異EGFRを末梢肺特異的に発現させた肺腺癌モデル系を樹立して、Ror1コンディショナルKOマウスと交配してラインの樹立を進めた。肺腺癌の発生が検出される前から、或いは、マイクロCT画像上において形成を認める時期以降にタモキシフェンを投与してRor1遺伝子をKOし、経時的に肺腺癌の発生と増大に果たすRor1の役割に関する個体レベルの検討を開始した。一方、TTF-1によって制御されるマイクロRNAの網羅的探索においては、TTF-1の転写活性を反映するTTF-1モジュールを実験的に規定し、TTF-1モジュールと有意な相関を示すmiR-532を同定し、KRASとMKL2を新たな標的遺伝子として見出した。また、TTF-1の結合タンパク質の質量分析器を用いた網羅的探索においては、DNA複製ストレスおよびDNA損傷シグナルに関わる蛋白質群を同定した。さらに、TTF-1がDDB1との結合を介して、DDB1とCHK1との結合を阻害してCHK1を安定化し、DNA複製ストレスに対する耐性を付与することを明らかとした。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題の遂行によって、ROR1が、細胞膜におけるカベオラ形成のみならず、カベオラ依存的なエンドサイトーシスを制御することを見出した。この結果は、これまでにないROR1の新たな分子機能を見出したものであり、肺腺癌においてROR1が果たす役割の多層性を強く示唆する。また、肺腺癌のリネジ生存癌遺伝子TTF-1が担う生存シグナルの解明という観点からは、ROR1がカベオラ依存的なエンドサイトーシスを通じて生存シグナルを制御している可能性が想定されるなど、今後の展開が大いに期待できる成果と言える。さらに、肺腺癌発生においてRor1が果たす役割を個体レベルで検証する試みも、Ror1コンディショナルKOマウスと変異EGFRトランスジェニックマウスの樹立と交配が順調に進んだ。今後の研究成果の蓄積を期待できる状態にある。その他にも、TTF-1によって転写活性化されるマイクロRNAの探索・同定と機能解析も順調に進んだ。また、TTF-1結合蛋白の網羅的探索を通じて見出したDDB1との結合は、TTF-1が、転写調節因子としての機能以外にも重要な役割を担っていることを示すものであり、非常に興味深い。
今年度の研究成果を受けて今後はさらに、ROR1が、エンドサイトーシスにより細胞内に形成されPI3K-AKT軸の生存シグナルを制御するシグナリングエンドソーム形成において果たす役割や、細胞膜上に存在するEGFR等の受容体のターンオーバーを制御するリサイクリングエンドソーム形成における役割等について着目しつつ、ROR1分子が肺腺癌細胞の生存シグナルを担う分子機序の解明を進める。また、Ror1コンディショナルKOマウスと変異EGFRトランスジェニックマウスの交配を継続してライン化し、肺腺癌の発生と増大に果たすRor1の役割に関する個体レベルの検討を、マイクロCTによる経時的な観察や病理形態学的な解析等によって進めていく予定である。また、TTF-1の二面性のある特性に関わる可能性が示唆される予備的検討結果を得ているTTF-1の共役転写因子FOXA2との関連性について、両者を単独或いは共発現を誘導可能な細胞株並びにKO細胞を樹立し、ChIP-seqや網羅的発現解析等を通じた分子生物学的な検討を加えていく。
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