研究課題
血管は酸素や養分を運搬する導管としての機能の他、臓器特有の幹細胞の維持がなされる生態学的な適所、いわゆるニッチとしての機能を有することが明らかにされてきた。この血管ニッチの概念は、正常組織のみならず、がん組織においても適応されることが明らかにされつつあり、我々は、がん組織におけるがん細胞と血管系細胞との相互作用の分子機序の解明に取り組んできた。本研究では、がんの悪性化を抑制する為の分子論的構築を行う為に、1)がん細胞の転移性血管ニッチの形成、2)血管構造安定化の破綻とがん細胞の悪性伸展に関わる分子機序、さらに、3)正常の血管が元来有するがん悪性化を抑制するバリア機能を解明することを研究の目的として研究を遂行した。1)に関しては、Galectin-3 (Gal-3)がどのような機序でがん細胞の転移の活性化と関わるのかを検討し、元来Gal-3の発現が低く転移性の高いB16-BL6細胞とGal-3の発現が高く転移性の低いB16細胞、そしてGal-3をCRISPR-Cas9システムでノックアウトしたB16細胞を作製し、これらの細胞で発現の異なる分子について、特に接着因子の発現の差について比較検討し、いくつかの候補因子の単離が終了した。2)に関しては、血管内皮細胞に発現して、血管の恒常性維持に関わるレセプター型チロシンキナーゼTieファミリー分子に関して、我々は血管新生の開始に先立ち、Tie1の細胞外切断が生じていることを見いだしたことから、本年度、可溶性Tie1が血管新生あるいは血管の構造変化に影響を与えるか否かを解析し、可溶性Tie1が血管の成熟化に関連することを見いだした。3)に関しては、正常組織由来血管内皮細胞の無血清培養に成功した培養上清を用い、TGFβによるがん細胞のEMT現象を抑制する分子が複数同定された。
2: おおむね順調に進展している
研究項目1では、Galectin-3(Gal-3)による転移性血管ニッチの制御を明らかにする為に、まずGal-3がどのような機序でがん細胞の転移の活性化と関わるのかを検討し、元来Gal-3の発現が低く転移性の高いB16-BL6細胞とGal-3の発現が高く転移性の低いB16細胞、そしてGal-3をCRISPR-Cas9システムでノックアウトしたB16細胞を作製し、Gal-3の有無によるがん細胞の転移能の解析を行った。その結果、Gal-3の発現とがん細胞の転移は逆比例することが判明し、このGal-3が関わる、がん細胞の転移のメカニズムについて、遺伝子解析の結果、いくつかの候補遺伝子が絞り込まれてきており、当初の計画通りに研究が進んでいる。また、研究項目2は、可溶性Tie1による血管構造の制御に関する研究であるが、血管新生の開始に先立ち、Tie1の細胞外切断が生じていることを見いだしたことに立脚して、このTie1の細胞外切断が、がんの悪性化と関連することを予想して、Tie1細胞外が切断されないマウスの作製に挑んできた。現在、Tie1切断領域に変異を挿入した遺伝子が挿入されたマウスを確認できるようになってきたことから、本マウスの作成における計画は順調に進んでいると考えられる。研究項目3は、上皮間葉転換抑制血管ニッチシグナルの解明である。血管から分泌される上皮間葉転換にかかわる分子の単離を行い、現在、その候補分子がいくつか単離されてきており、当初の計画に沿った研究が遂行されている。
研究項目1については、Gal-3が抑制している、がん細胞の転移促進因子として候補に挙がった因子について、その機能的意義と、実際Gal-3がどのようにその分子の発現を制御しているのかを解明する。がん細胞の転移メカニズムの一つを明らかにする。研究項目2においては、Tie1の細胞外切断が抑制されたマウスの作製を完了し、本マウスを用いて血管形成に与える影響を観察する。生理的な血管形成に与える影響をまず解析し、それとの比較で腫瘍血管新生に与える影響を明確にする。がんの進展におけるTie1受容体の血管形成における役割が明確になる。研究項目3では、正常血管がEMTを抑制する機序を有するという、生理的に非常に興味ある現象が分子レベルで明らかにされつつあるが、今後この候補遺伝子に関しては、遺伝子改変マウスの作成準備を行うとともに、本候補分子の機能を試験管内でも解析する。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 謝辞記載あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 2件、 招待講演 10件) 備考 (1件)
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