研究課題/領域番号 |
16H02472
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
金井 弥栄 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 教授 (00260315)
|
研究分担者 |
新井 恵吏 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (40446547)
山地 太樹 国立研究開発法人国立がん研究センター, 社会と健康研究センター, 室長 (10466203)
伊藤 秀美 愛知県がんセンター(研究所), 疫学・予防部, 室長 (90393123)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | エピゲノム / エピゲノムワイド関連解析 (EWAS) / 膵がん / DNAメチル化 |
研究実績の概要 |
本研究は、エピゲノムワイド関連解析 (epigenome-wide association study [EWAS])を基盤とし、検診等の血液検査で難治がんである膵がん発症の高危険群を捕捉するためのリスク診断法を開発することを目的とする。質の高い問診情報・診療情報等の付随した充分数の末梢血検体におけるゲノム網羅的DNAメチル化解析結果を基に、質の高い臨床病理情報の付随した前がん段階にある組織検体におけるエピゲノム解析結果を参照し、血液細胞組成の影響を排除し、DNAメチル化率の精密定量結果に基づいて適切な診断閾値を設定することにより、リスク診断基準を策定する。適切なリスク診断基準が策定できれば、高危険群に集中して高精度画像診断法等を適用し、治癒切除可能な超早期段階での診断を可能にできると期待される (二次予防)。本研究で確立するリスク診断法は、将来の生活習慣改善や化学予防等の介入予防の実現にも資すると期待される (一次予防)。 具体的には、平成28年度に、組織検体のゲノム網羅的DNAメチル化解析に基づき、膵がんの発生母地となる末梢膵管上皮に前がん段階から惹起され発がんに寄与するDNAメチル化異常を示すCpG部位を明らかにする。平成29-30年度に、このCpG部位のDNAメチル化異常が、同じ発がんの内的・外的要因の影響下にある同一患者の末梢血細胞にも検出され、末梢血細胞において発がんリスク段階にあることを診断するためのサロゲートマーカーとなることを示す。マーカーCpG部位のDNAメチル化率の精密定量により適切な診断閾値を設定し、末梢血検体を用いて膵がん高危険群を捕捉するためのリスク診断基準を策定する。膵がんリスク診断法の信頼性を検証コホートで検証する。また、国内外の分子疫学コホートとも連携して前向き検証を開始する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画通り、国立がん研究センター中央病院において、膵浸潤性導管がんのために膵切除を受けた手術材料より、非がん膵組織 (膵がんの発生母地になった末梢膵管上皮を含み、前がん段階にある可能性がある)・膵浸潤性導管がん組織を解析に供した。比較のため、ファーター乳頭部がん・肝外胆管がん等非膵腫瘍症例の手術材料より得られた正常膵組織を同様に解析に供した。上記検体において、全ゲノム上の48万CpG部位のDNAメチル化率データを、1塩基解像度で定量性に優れたInfinium HumanMethylation450 Bead Array (Illumina社)により取得した。膵がん症例より得られた前がん段階にある膵組織において正常膵組織においてDNAメチル化率が有意に変化し、傾向性検定でその変化が膵がんに継承されるか膵がんにおいて更に亢進する、膵組織における発がんリスクマーカーとなる候補CpG部位を同定した。この際、開発するリスクマーカーの汎用性を高めるため、そのDNAメチル化率が性別・年齢の影響を受けない候補CpG部位を選択した。加えて、共同研究機関と協議し、各機関の倫理審査委員会において研究承認を得た。また、解析対象とすべき血液検体の選定・移送準備等を共同研究機関において順調に進めたので、概ね計画通りの進捗と考える。
|
今後の研究の推進方策 |
① 末梢血検体におけるInfinium解析結果の継承: 先行事業等で全国諸施設で収集され、金井の技術的支援により既にInfinium解析に供していた、膵がん142件-対照277件の末梢血検体の全試料と全データを継承する。性別・年齢について調整を行った後、平成28年度までの組織検体の解析で同定した末梢膵管上皮における発がんリスクマーカー候補CpG部位であって、末梢血検体において膵がん症例-対照間でDNAメチル化率が有意に異なる発がんリスクマーカーCpG部位を同定する。 ② 統計学的手法と実測による血液細胞組成の影響の排除: 細胞組成の違いによるバイアスというEWASの課題を克服するため、我々自身の血液検体を細胞分画に分けて次世代シークエンサ解析・パイロシークエンス法等を用いた実測を実施して、血液細胞組成の影響を排除するためのEWAS検定式 (Nat Biotechnol 31: 142, 2013)の妥当性を検証する。必要があればEWAS検定式の修正を行う。 ③ 健常者データ・IHECデータを参照した最終的な候補CpG部位の確定: 血液細胞組成の影響の排除をさらに完全にするため、山地・吉田・金井が過去に別の多目的コホート研究 (JPHC study)でInfinium 解析に供した、非担がん試料等提供者446 件の末梢血検体のデータを参照する。②までで絞り込んだ候補CpG 部位のうち、非担がん試料等提供者446 件 (特段の膵がん高危険群と臨床的に推測される者を除く健常者)では、血液細胞組成に関わらず、常に例外なく低メチル化状態 (Infinium 解析のβ値0.1 未満)にあるCpG 部位をさらに絞り込む。さらに、国際ヒトエピゲノムコンソーシアム (IHEC)で参加各国研究チームが提出する標準エピゲノムデータを参照し、最終的な候補CpG部位を確定する。
|