研究課題
本研究は、エピゲノムワイド関連解析 (epigenome-wide association study [EWAS])を基盤とし、検診等の血液検査で難治がんである膵がん発症の高危険群を捕捉するためのリスク診断法を開発することを目的とする。質の高い問診情報・診療情報等の付随した充分数の末梢血検体におけるゲノム網羅的DNAメチル化解析結果を基に、質の高い臨床病理情報の付随した前がん段階にある組織検体におけるエピゲノム解析結果を参照し、血液細胞組成の影響を排除し、DNAメチル化率の精密定量結果に基づいて適切な診断閾値を設定することにより、リスク診断基準を策定する。適切なリスク診断基準が策定できれば、高危険群に集中して高精度画像診断法等を適用し、治癒切除可能な超早期段階での診断を可能にできると期待される (二次予防)。本研究で確立するリスク診断法は、将来の生活習慣改善や化学予防等の介入予防の実現にも資すると期待される (一次予防)。平成29年度には、平成28年度に組織検体の網羅的解析で同定した前がん段階から末梢膵管上皮で異常を示すCpG部位のDNAメチル化率を、学習コホート血液検体においてパイロシークエンス法等で精密定量している。並行して血液検体においてInfinium解析によってスクリーニングを行うため、PLoS One 11: e0147519, 2016に記載された方法に基づく血球成分組成に関する補正パイプラインを、R言語を基盤として作成し実装した。さらに、模擬データを用い、同パイプラインの性能が十分であることを検証した。血液検体で既に取得したInfinium解析データに、同パイプラインを適用中である。愛知県がんセンターにおいて研究分担者伊藤等が収集した検証コホートの血液検体については、慶應義塾大学における受け入れのための倫理審査を完了し、研究代表者金井の研究室に移送した。
2: おおむね順調に進展している
平成28年度末時点で、平成29年度の実施予定項目として挙げていた、先行事業で取得した膵がん142検体-対照277検体のデータの継承と、血球成分組成に関する補正パイプラインの作成と実装、を完了したため。別の多目的コホート (JPHC study)による膵がんを伴わない対照症例の血液検体のInfiniumデータは、予定通り随時参照しつつ解析を進めている。さらに、 検証コホート552検体を確保し、信頼に足る結論を得られる見通しが立った。
候補CpG部位の絞り込みとリスク診断閾値設定を進める。他方で、研究代表者等は、検診機関等にも普及可能な操作性・定量性に優れた高速液体クロマトグラフィーを基盤とするDNAメチル化定量システムを企業と共同研究開発し、国内・国際特許もすでに成立させている。このシステムは、キットを変えることで、諸臓器がんの発がんリスク診断・存在診断・病態診断に適用できる汎用性を備えている。同定したリスク診断閾値をこのシステムに適合させることで、検証コホートの解析を加速させるとともに、予防・先制医療がルーチン化される近い将来、検診に組み込んで発がんリスク診断を社会実装するための基盤を準備する。
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