研究課題
ヒト染色体14番の父親性2倍体症候群(Kagami-Ogata syndrome)、母親性2倍体症候群(Temple syndrome)におけるPEG11/RTL1の機能を、疾患モデルマウスを用いて解析を進めた。その結果、Peg11/Rtl1を欠失した場合、高発現した場合のどちらも、新生児の呼吸に関わる筋肉系に異常を引き起こすことを確認した。また、抗体を用いた免疫染色によりPeg11/Rtl1タンパク質が筋肉サルコメアの構成要素であることを明らかにした。筋肉は動物界に広く見られる組織であるが、われわれの研究により真獣類の筋肉は他の脊椎動物とは異なる構成成分として真獣類特異的遺伝子の産物であるPEG11/RTL1タンパク質を含んでいること、そしてこのタンパク質の過剰はヒト疾患を起こすことを明らかにできた(論文投稿中)。Peg10遺伝子は初期胎盤形成に必須の機能を持つことを以前、KOマウスの解析で明らかにしていたが、実際の細胞生理学的機能については長い間、明らかにすることができていなかった。今回、初めてPeg10が哺乳類の胎盤に特徴的なトロホブラスト細胞形成に重要な機能を持つことを確かめることに成功した(論文準備中)。この遺伝子は体制の哺乳類にのみ存在するが、この遺伝子が哺乳類の胎盤の一番の特徴であるトロホブラスト細胞の形成に必須の機能があることは、この獲得が哺乳類の胎生機構の獲得に非常に重要な意味を持つことを意味している。ゲノムインプリント記憶は個体発生.成長、行動に重要な役割を果たしている。これは体細胞系列では高度に保存されているが、ES細胞の様な多能性幹細胞においては培養条件により非常に不安定であることが知られている。ES細胞やiPS細胞から直接、分化細胞や組織を形成する際には、これが重要な問題となる。様々な培養条件を検討した結果、樹立から細胞の継代までをFBS+2i条件で行うことにより正確なインプリント情報を持ったES細胞を維持できることを報告した(Genes Cells 2018)。
2: おおむね順調に進展している
PEG11/RTL1は胎盤における機能だけでなく、胎児側でも重要な機能を持つことがKagami-Ogata症候群の解析結果から示唆されていたが、今回、ようやくその関与を示すことができた。また、その結果は、哺乳類の筋肉は他の脊椎動物とは異なる構成要素を持つという新しい生物学的発見も含んでおり、哺乳類進化の研究領域においても新しい貢献ができたと考えている。PEG10についても、KOマウスが胎盤形成不全により初期胚致死になることを2006年に報告していたが、実際、これが胎盤形成のどの部分の異常であるかを示すことができていなかった。今回、初めてその核心に迫る結果を得ることができ、論文投稿の準備を進めている。今回の基盤研究(A)の中で、長年の懸案事項であったPEG10とPEG11/RTL1の機能に関する重要な知見をまとめることができると考えている。
Kagami-Ogata症候群の患者さんに見られる様々な病態のうち、精神遅滞の発症だけがまだ未解決である。PEG11/RTL1は成体脳では発現が見られないが、この精神遅滞の発症にも関係する可能性があるのかどうか、モデルマウスを用いた行動解析を行う予定である。PEG10に関しては、トロホブラスト細胞形成に関わる他の因子との関係を明らかにすることで、哺乳類胎盤の形成機構についてより詳細に解明をする予定である。
すべて 2018 2017 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 6件、 招待講演 7件) 備考 (1件) 産業財産権 (1件)
Genes Cells
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http://www.tmd.ac.jp/mri/epgn/index.html