研究課題/領域番号 |
16H02490
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
波利井 佐紀 琉球大学, 熱帯生物圏研究センター, 准教授 (30334535)
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研究分担者 |
安田 仁奈 宮崎大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (00617251)
渡邊 剛 北海道大学, 理学研究院, 講師 (80396283)
中村 崇 琉球大学, 理学部, 准教授 (40404553)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 生態学 / 深場サンゴ生態系 |
研究実績の概要 |
サンゴ礁深場(水深30m以深)は温暖化による高水温の影響を受けにくく、浅場群集のレフュジア(避難地)として期待されている。本研究では、1)サンゴ幼体の鉛直加入構造と移植による適応過程、2)集団遺伝解析による鉛直的連結性、3)深場環境評価により、深場-浅場サンゴ生態系の関係性を明らかにしている。本年度は以下を行った。 1)浅場へのサンゴ加入・適応過程 はじめに、深場の対象サンゴの繁殖時期を明らかにするため、深場からサンゴを採集し室内で飼育して幼生放出時期を特定した。また、成体や得られた幼生を定着させ異なる水深に移植して、生残や光合成活性などを明らかにした。 2)サンゴの鉛直集団遺伝構造 対象サンゴの鉛直的集団遺伝構造を明らかにするため、沖縄の様々な海域よりサンゴを採取し、ゲノムDNAを抽出した。はじめに、本種の鉛直的な遺伝的多様性を明らかにするため核マーカー(Internal transcribed spacer 2, ITS2)および ミトコンドリアマーカー (hypervariable open reading frame, ORF)を用いて解析を行った。また、同時に水深に特異的な褐虫藻遺伝型が存在するかもITS2領域を用いて調べた。その結果、宿主サンゴ、褐虫藻共に異なる水深による特異的な系統は見られなかった。さらに、これらの試料を用いてマイクロサテライトマーカーを用いて集団遺伝構造を解析している。 3)深場環境評価 異なる3水深よりサンゴを採取し、骨格のX写真を撮影し年輪を特定した。過去の環境を明らかにするため、これらの骨格試料より様々な同位体を用いて解析している。この他、CTDを購入して対象海域の水温・塩分を測定し鉛直構造を明らかにした他、水温、光量子の連続計測を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
昨年度、稚サンゴを移植する前に詳細な繁殖生態(幼生放出時期)を明らかにする予定であったが、その際に順調に幼生が採集されたため、野外実験を先行して行うことができた。また、集団遺伝構造を解析する前に対象種の遺伝的多様性を明らかにしたが、解析が順調に進んだため、予定よりも早く英文論文として公表ができる見込みとなった。 さらに、昨年夏は異常な水温上昇により浅場でサンゴの白化が起こった。そのため、実際に深場サンゴ生態系のレフュジア仮説(深場のサンゴが高水温から逃れて生き残っているかどうか)を検証することができた。その結果、水深20m程まではサンゴの白化がみられたが、水深40m付近では浅場に見られるサンゴ種においても白化していないことが明らかとなった。これまでに深場のレフュジア仮説は検証されたことがなかったため、当初の予定以上に成果をあげることができた。これらは学術大会の口頭発表で公表し、現在、英文論文にまとめる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
H28年度の継続で以下を行う予定である。 1)浅場へのサンゴ加入・適応過程 昨年度に引き続き、深場サンゴから浮遊幼生を採集し、定着させて様々な水深に移植し、生残に関する生理・生態学的な情報を得る。鉛直的な加入構造を明らかにするため定着基盤を設置し、複数の遺伝子マーカーを用い加入個体の種判別を行う。 2)集団遺伝解析による鉛直的連結性: 琉球諸島内でサンプリング地点を増加させ対象種を採取する。試料からゲノムDNAを抽出し、マイクロサテライトマーカーを用いてジェノタイピングを行い、より広範囲での鉛直集団遺伝構造の解析を明らかにする。 3)深場環境評価: 異なる水深における光・水温環境について長期モニタリングを継続する他、過去数十年の環境復元についても解析を進める。
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