研究課題/領域番号 |
16H02499
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
豊島 近 東京大学, 分子細胞生物学研究所, 教授 (70172210)
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研究分担者 |
小川 治夫 東京大学, 分子細胞生物学研究所, 准教授 (40292726)
金井 隆太 東京大学, 分子細胞生物学研究所, 助教 (50598472)
椛島 佳樹 東京大学, 分子細胞生物学研究所, 助教 (00580573)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 構造生物学 |
研究実績の概要 |
a)イオンポンプ能動輸送機構の構造的解明を目指し、a1: “SERCAとNa+,K+-ATPaseの残された中間対の結晶化”とa2: “サイトI Ca2+による構造変化の解明”を提案した。a1では、細胞質側ゲート残基であるE309の変異体の結晶構造解析に注力した結果、Q変異体のみならずA変異体の結晶構造の決定にも成功した。E309Q変異体の構造は驚くべきものであり、細胞質側ドメインはE1様だが、膜内Ca2+結合部位の構造は明らかにE2であった。この構造変化がプロトン化グルタミン酸をグルタミンに置換したことによるものであることは明らかだが、その構造的基盤の解明には量子化学的計算を要すると考えられる。Na+,K+-ATPaseに関しては、E1・3Na+状態、E2・2K+状態に相当すると思われる予備的結晶を得ることに成功した。a2に関しては、Ca2+が1個だけ結合した状態の結晶構造が得られた。これは今後の大きな発展が見込める成果である。(b) Plasma membrane Ca2+-ATPase (PMCA)の構造決定に関しては、アデノウイルス・COS細胞系による大量生産を試み、予定よりも時間を要したが、一応の成功を得た。カルモジュリンによる制御の測定系も確立できた。 (c) P4型ATPaseによる燐脂質フリップ機構の解明に関し、本年度は大量発現に取り組んだ。これまでに確立済みのアデノウイルス・COS細胞系とbicistronicなベクターを用いCDC50Aとの複合体の産生を試みたところ、ATP8A2に関しては、1 L培養あたり0.5 mg程度の精製蛋白質が得られるようになりATPase活性のリガンド依存性も確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定よりも大量発現に時間を要したものがあり、半年間の延長を申請したが、現時点ではほぼ予定通り進行している。特に、SERCAでCa2+が一個だけ結合したE1・1Ca2+状態の結晶化に成功したことは特筆すべき成果といえる。
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今後の研究の推進方策 |
a) の“イオンポンプ能動輸送機構の構造的解明”に関しては、E309Q変異体の結晶構造に基づく量子化学的計算を完成させ、特に、E309からのプロトンの離脱が何を引き起こすかを調べる。それによって、E2⇒E1状態への変遷がどのようにして起こるか、そのシナリオを提案できる可能性がある。Na+,K+-ATPaseに関しては、特に、E1・3Na+状態の結晶の改良に注力する。脱水和方法の検討など、試みるべきことは多い。一方、「カルシウムポンプにおいて2個のCa2+の結合による燐酸化反応の活性化シグナルとは何か」という問題の解決に向けてE1・1Ca2+状態の結晶性の改良とそのもととなるE1・Mg2+構造の高分解能化、量子化学的計算を行なう。特に、K+などのCa2+以外のイオンがE1⇒E1・Mg2+⇒E1・1Ca2+⇒E1・2Ca2+のどの段階にどのように寄与するのかを当該イオンを含む緩衝液に浸漬した結晶から構造決定を行なうことで明らかにできよう。b)のPMCAに関しては精製方法の検討を行なう。c)の P4型ATPaseに関しては、ATP11Cの方が重要であり、内在性CDC50Aとの競合の問題を避けるためにも、ヒト由来の培養細胞での発現検討を行なう。同時に、阻害剤・活性化剤などの薬剤の探索を開始する。
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