真核生物の鞭毛・繊毛は内部の軸糸ダイニンによって運動が駆動される。高等生物では、組織分化に伴い繊毛運動が多様化しており、回転運動、平面非対称運動、正弦波様の運動など、様々な運動モードを呈する。本研究では、「組織間で異なる繊毛運動モードは、それを駆動する軸糸ダイニンの違いによる」という仮説を検証するために、軸糸ダイニン組み立て因子や、軸糸ダイニンコンポーネントについて機能解析を行った。 これまでに、4つの軸糸ダイニン組み立て因子のゼブラフィッシュ変異体についてCryo-ET法によって精子の軸糸構造を解析し、変異体精子の運動性と欠損する軸糸ダイニンサブタイプを対応づけた(Elife. 2018 May 9;7:e36979.)。また、軸糸ダイニンコンポーネントであるCalaxin/Efcab1遺伝子についてゼブラフィッシュ変異体を作製し、クッペル胞繊毛の運動に必須な機能を持つことを明らかにした。 ( Commun Biol. 2019 Jun 20;2:226)。 本年度はさらにCalaxin/Efcab1の機能解析を行うためにCryo-ET法によって変異体精子の構造を解析した。しかし、Calaxin/Efcab1は分子量~20kDaと比較的小さいため観察が難しかったこと、また、クライオ電子顕微鏡観察法の普及に伴い、より高解像度の構造情報が求められるようになったことから、クライオサンプルの調整・撮影・画像解析法の改善に多くの時間を費やした。その結果、これまで約45Aの解像度で観察していた軸糸構造を、約25Aの解像度で解析できるようになった。また、局所的には約20Aの解像度で軸糸ダイニンの構造を解析できるようになり、Calaxin/Efcab1が脊椎動物の外腕ダイニンを微小管に結合する新規リンカー構造を形成することが明らかになった。この成果は現在論文にまとめ、投稿する予定である。
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