研究課題/領域番号 |
16H02503
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
登田 隆 広島大学, 先端物質科学研究科, 特任教授 (50197894)
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研究分担者 |
湯川 格史 広島大学, 先端物質科学研究科, 特任助教 (50403605)
西 晶子 奈良先端科学技術大学院大学, バイオサイエンス研究科, 助教 (50772422)
上野 勝 広島大学, 先端物質科学研究科, 准教授 (90293597)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 微小管 / アンカー因子 / キネシンモーター / 紡錘体 |
研究実績の概要 |
チューブリン分子二量体の重合・伸長により形成される細胞骨格微小管は、生命活動において、染色体分配・細胞極性・細胞運動などに様々な事象において重要な機能を持つ。通常、微小管は細胞内において中心体と呼ばれる細胞小器官からチューブリン二量体が重合、伸長することによってその形態が形成される。過去50年間にわたり行われてきた多様、多岐にわたる研究により、細胞内での複雑な微小管制御機構が次々と明らかにされてきた。またin vitro系を用いた研究から、微小管の生物物理学的特徴も判明した。一方、中心体から微小管がいかに重合・伸長するかに関する分子レベルでの我々の理解の深化に比して、驚いたことに、そのように重合、伸長した微小管が中心体に係留(アンカー)される分子機構の知見は、これまで皆無であった。申請者は先に分裂酵母を用いて、世界で初めてアンカー因子(Msd1-Wdr8-Pkl1複合体、以下MWP複合体と呼称する)を同定した。 本基盤研究(A)では、平成29年度中に計画した3つプログラムについて研究を遂行し、次に示した成果を上げることができた。とりわけ(a) in vitro系において、Pkl1のモーター活性検出のアッセイ系が確立できたこと、(b)さらにPkl1内のドメイン解析から、非モーター領域であるN末端部位がMsd1と相互作用することを示したこと、(c)cut7変異体の遺伝的サプレッサーが系統的に分離できたことは今年度の大きな成果といえる。Wdr8については、大腸菌内での発現がほとんど検出できず、さらなる条件検討が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)生化学的解析:分裂酵母MWP複合体の構成サブユニットの一つ14型キネシンPkl1遺伝子を大腸菌で導入し。タンパク質 の単品精製に成功した。次に、これらの標本を利用して、全反射照明蛍光(TIRF)顕微鏡を用いたPkl1タンパク質のATP依存的モーター活性測定と微小管上でのその方向性決定を行っている。またMsd1全長タンパク質の大腸菌での発現・精製にも成功したので、Pkl1とMsd1タンパク質をin vitroで混合することによって、これら二つのタンパク質が直接結合するか検討中である。Wdr8については、大腸菌中での発現が確認できていない。発現系ヴェクターあるいは株を変えて、現在解析中である。
2)MWPと相互作用する新規遺伝子の同定:MWP複合体は5型キネシンCut7と拮抗的に機能することが、当研究室の結果からわかってる。MWP複合体と機能連関するタンパク質・機能経路を同定する目的で、温度感受性cut7変異体を抑制するサプレッサー株を、独立に50株以上分離した(suppressor of cut sevenと命名)。次世代シーケンスにより、サプレッサー変異遺伝子の同定を行ったところ、予想通り現在mwp各遺伝子に変異が起こっていることが確認できた 。 3)Msd1、Wdr8の構造ドメイン解析:前述したサプレッサー解析より、Msd1, Wdr8, Pkl1に見られるドメインの必須機能が明らかになってきた。Msd1は3つのコイルドコイル配列を持つが、それらはMsd1機能に必須であることが明らかになった。Wdr8については、WD40繰り返し配列に相同性のある領域以外に、N末あるいはC末断片も、重要な機能を持つことが明らかになった。Pkl1はC末のキネシンモーター領域、N末の二量体形成ドメインが必須機能を持つことが判明した。
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今後の研究の推進方策 |
1)MWP複合体の生化学的・分子細胞生物解析:分裂酵母MWP複合体の構成サブユニット14型キネシンPkl1のモーター活性検出が今後の最も重要な課題である。Pkl1は微小管上をマイナス方向に移動するモーターであると予想されている。Pkl1単一分子の運動をTIRF顕微鏡下で観察し、Pkl1の微小管上での運動性を検証する。さらにin vitro系をも適用して、Msd1がPkl1のモーター活性をいかに制御するか、また微小管結合能に対する影響はどうかという点について詳細な検討を加える予定である。Wdr8タンパク質については、大腸菌系でのさらなる検討を加える。それがうまく回らない場合は、大腸菌以外の系、例えばヴァユロ系、の使用を考慮する。 2)MWP複合体と結合する新規タンパク質の検索:分裂酵母5型キネシンcut7温度感受性変異株を抑圧するサプレッサー遺伝子(scs)の全ゲノム配列を次世代シークエンシングによって決定する。MWP以外のタンパク質をコードするSCSタンパク質については、これらのタンパク質とMWP構成サブユニットとの遺伝学的、物理的相互作用について検討を加える予定である。 3) MWP複合体構成因子Msd1、Wdr8タンパク質内の機能構造ドメインの同定と解析:Msd1、Wdr8の構造ドメインに関する機能情報に基づいて、生化学的解析によりMsd1-Wdfr8-Pkl1の3つのタンパク質の相互作用マップ、すなわち各領域のどのアミノ酸残基がタンパク質-タンパク質相互作用に関与するかを、分子レベルで明らかにする。 4)ヒトMWP因子の機能保存検証。:ヒトにおけるMWP複合体存在の検証に関しては、結合実験用の発現プラスミドの構築、使用する大腸菌株の調整を進める。
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