現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度【今後の研究の推進方策】として、次の3つの研究計画を挙げた (1)5型キネシンCut7の温度感受性変異サプレッサー遺伝子の包括的解析。(2)Cut7がスピンドル微小管安定性を制御する機作の解明。(3)酵母-ヒト間のキネシン分子の機能保存検証。以下、それぞれの計画の進捗状況を記述する。(1)については、Cut7の温度感受性変異体を新たに分離し(Tang et al., 2019, Biosci Biotechnol Biochem; Yukawa et al., 2019, Sci Rep)、それらを用いて、サプレッサー遺伝子との機能相関を検討した。その結果、サプレッサー遺伝子が3つのグループに分類できることが明らかになり、サプレッサー遺伝子産物の細胞機能に関して新知見を得ることができた。(2)については、Cut7が6型キネシンKlp9と協働して、微小管安定性を制御することを見出した(Yukawa et al., 2019, Sci Rep)。さらに微小管ポリメラーゼAlp14、Dis1分子も微小管伸長・安定性に重要な機能を持つことも明らかになった(Yukawa et al., 2019, Int J Mol Sci)。(3)については、4つのヒトキネシン遺伝子を分裂酵母で発現させ、キネシン分子の酵母とヒト間での機能保存の検証実験が進行中である。論文出版は、上にも一部挙げたが、国際誌に4報(Tang et al., 2019, Biosci Biotechnol Biochem; Yukawa et al., 2019, Sci Rep; Yukawa et al., 2019, Int J Mol Sci; Kurisawa et al., 2020, Bioorg Med Chem)出版した。以上の成果から、今年度の本事業は『概ね順調に進行している』と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
(1)5型キネシンcut7温度感受性変異を抑圧する新規サプレッサー遺伝子の機能解析。 単離したサプレッサー遺伝子のうち、2遺伝子(skf7, skf8)が新規RNA結合タンパク質をコードすることが明らかになった。興味深いことに、Skf7タンパク質は通常は細胞質内に均一に存在するが、種々の細胞ストレス条件下で、細胞内で多数の凝集顆粒を形成した。さらにこの顆粒がストレス顆粒(Stress Granules, SGs)であることも判明した。令和2年度はSkf7を含むSGsの細胞周期における機能、SGsと微小管繋留経路の機能連関について、鋭意解析する予定である。一方、Skf8は通常は細胞核内、特に染色体上にドット状局在を示す。RNAseq法を用いて、Skf8と結合するRNA分子の同定、Skf8のRNA代謝における役割解明を目指す。(2)ヒトキネシン分子(KifC3、Eg5)機能の酵母を利用した解析。酵母とヒトキネシン分子の機能保存性を調べる過程で、14型キネシンHSETのみならず、他2つのヒトキネシン分子(KifC3、Eg5)を分裂酵母内で過剰発現させると、致死となることが明らかになった。多くのヒト癌細胞でKifC3、Eg5の過剰発現あるいは活性異常が報告されている。分裂酵母系をモデルとして、これらキネシン分子による癌化の原因を追求したい。具体的には、生細胞ライブ観察によるキネシン過剰発現細胞の詳細な表現型観察及びサプレッサー変異単離とその遺伝子同定である。(3)ヒトキネシン阻害剤の酵母を用いた分離と同定。前年度HSET阻害剤としてセイタカアワダチソウからコラヴェン酸アナログ体を同定した。今年度は植物のみならず、植物に共生する放線菌にも着目し、新たな阻害剤の分離を目指す。またHSET以外のキネシン、特にKifC3、Eg5の阻害剤分離にも着手する。
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