研究課題/領域番号 |
16H02505
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
井垣 達吏 京都大学, 生命科学研究科, 教授 (00467648)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 発生ロバストネス / 細胞間コミュニケーション / 細胞死 / 形態形成 / ショウジョウバエ |
研究実績の概要 |
動物の個体発生は、種々の内的(遺伝的)あるいは外的(環境的)撹乱の下でも正確な組織・器官を形づくるロバストなシステムである。発生中の生体が様々な撹乱に対処して正常発生を維持する際、発生の時間軸に一時的な異常(時間軸の歪み)が生じ、これが何らかの機構で補正されることで発生ロバストネスが実現されると考えられる。本研究では、ショウジョウバエの発生過程で時間軸に歪みが生じた際、これを補正する細胞集団挙動「細胞ターンオーバー」が誘発されるという予備的知見に基づき、この未知の細胞集団挙動の分子基盤とその役割の解析を通じて、発生ロバストネスを支える細胞間コミュニケーションの新たな概念の発見を目指す。ショウジョウバエMinute変異体(リボソームタンパク質遺伝子のヘテロ変異体)の発生過程では、幼虫期において発生時間が顕著に遅延するものの最終的には正常な形・大きさの個体が作られる。これまでの本研究により、Minute変異体の幼虫期の翅原基においてEcdysone-Yki依存的にWgシグナル活性が急勾配化して細胞ターンオーバーが誘導されること、またEcdysone-JNKがDilp8を発現誘導して個体の発生遅延が誘発することを見いだすとともに、RhoGEFタンパク質pebbleのヘテロ変異体の翅原基でカスパーゼ阻害タンパク質p35を発現させると翅形成異常が起こることを見いだした。平成30年度は、まずpebble遺伝子のヘテロ変異体の解析を進め、翅原基において実際に細胞ターンオーバーが起こっていること、またこの現象もJNK依存的であること、さらにこの現象に細胞分裂軸の異常が関与する可能性を見いだした。さらに、Minute変異体においてYki遺伝子をヘテロに欠失させると翅の形態形成に顕著な異常が起こることを見いだし、この現象もJNK活性化によって起こることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、ショウジョウバエMinute変異体の翅原基pouch領域で起こる「細胞ターンオーバー」に着目し、この未知の細胞集団挙動の分子基盤とその役割の解析を通じて、発生ロバストネスを支える細胞間コミュニケーションの新たな概念の発見と確立を目指すものである。これまでに、この細胞ターンオーバーの誘発には翅原基pouch領域におけるEcdysone-Ykiシグナルを介したWgシグナル活性の急勾配化と、Ecdysone-JNKシグナル依存的なDilp8の発現誘導による個体の発生遅延という2つの現象の協調が必要であることを明らかにしてきた。また、細胞ターンオーバーが発生時間軸の歪みを補正するメカニズムを探索するために行った遺伝学的スクリーニングにより、Minute変異体と同様の細胞ターンオーバーを引き起こすpebble遺伝子変異を同定するとともに、その細胞ターンオーバー誘発メカニズムの一端を明らかにした。さらに、Minute変異体においてYki遺伝子をヘテロに欠失させるとJNK依存的に翅の形態形成に顕著な異常が起こることを見いだし、Yki活性が発生ロバストネス向上の重要な鍵となっている可能性を見いだした。以上の経過から、本研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、細胞ターンオーバーがどのようなメカニズムで発生時間軸の歪みを補正(発生遅延という状況下で正常な組織発生を実現)するのかを理解するため、細胞ターンオーバーを引き起こすMinute以外の変異体(pebbleヘテロ変異体)における細胞ターンオーバー誘発メカニズムの解析を進め、Minute変異体の解析で得られたデータと比較・検証する。さらに、Minute変異体においてYki遺伝子をヘテロに欠失させるとJNK依存的に翅の形態形成に顕著な異常が起こるという新たに見いだした現象に着目し、その分子メカニズムを解析することで、発生ロバストネスにおける細胞ターンオーバーの役割とその機構解明に迫る。
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