研究課題
ほ乳類において、精子となって次世代に遺伝情報を伝える生殖細胞(雄性生殖細胞)は、胚発生過程、生後の生殖腺発達過程、さらに成体の精巣内で起こる定常状態の精子形成過程を通して、選択と競合を繰り返している。これは生物学的に重要なプロセスだが、そのメカニズムや、勝ち残る細胞の特性は不明である。本研究では、雄性マウス精巣における精子形成を対象に、生殖細胞の選択と競合のメカニズムを解析している。出生直後のオスマウスの精巣では、ゴノサイトと呼ばれる前駆細胞が多数存在し、そこから成体期に長期間にわたって精子形成を支える精子幹細胞が生じる。その一方で、ゴノサイトの中には、精子幹細胞にならずに分化過程に直接入り、生後初めての精子形成に寄与するもののその後の精子形成には預からない細胞(first wave)も多数存在する(研究代表者ら、Development 2006)。本研究の第一の目的は、精子幹細胞となって多くの精子を作り出す細胞とfirst waveとして次世代にはほとんど寄与しない細胞が、ゴノサイトから選択される機構を解明することである。現在、ゴノサイトの段階ですでに細胞運命が方向付けられていることを示唆する結果を得ている。一方成体精巣では、定常状態精子形成を支える精子幹細胞同士がお互いに競合関係にある(研究代表者ら、Cell Stem Cell 2010, Cell Stem Cell 2014)。本研究では、そのメカニズムを特に分子レベルで解明することを第二の目標としている。現在、幹細胞同士が競合する分子実態についての新規の知見を得ている。また、競合を優位に勝ち残る細胞の性質を解明するために、そのような細胞を導入する実験系の作出を進めている。
2: おおむね順調に進展している
精子幹細胞の成立プロセスの解析については、まず、出生後のオスマウス精巣における細胞分化プロセスを遺伝子発現と形態の両面から詳細に解析した。その結果、成体精巣には見られないタイプの生殖細胞が一時的に出現し、数日の間に成体型の細胞に変遷することが分かった。さらに、ゴノサイトの運命を単一細胞レベルで解析する実験系を構築した。具体的には、ゴノサイト集団の全体あるいは部分集団でタモキシフェン依存的Creリコンビナーゼを発現する遺伝子改変マウスを用いて、出生直後のオスマウスのゴノサイトを標識する実験系を構築した。このマウスを用いることで、個々のゴノサイトの運命を詳細に解析することを可能とした。予備的な結果は、ゴノサイトの段階ですでに、高い確率で幹細胞になるものとfirst waveに進む確率が高い細胞が存在していることを示唆する結果を得ている。成体の精子幹細胞間の競合の分子メカニズムについては、変異マウスを用いた遺伝学的解析と数理モデルを組み合わせることで、競合の対象となる分子実態と競合メカニズムについての新規の知見を見出した。これに基づき、競合を優位に勝ち残ると予想される変異を精子幹細胞に導入するマウスを作出した。
精子幹細胞の成立プロセスについては、細胞運命データを数理統計解析に供するとともに、運命選択に関わる分子メカニズムを検索する。精子幹細胞間の競合を優位に勝ち残る精子幹細胞を導入し、その遺伝子発現が示す特徴を詳らかにすることによって、競合の分子メカニズムに迫る計画である。
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PLOS one
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https://doi.org/10.1371/journal.pone.0190800
http://www.nibb.ac.jp/germcell/