研究実績の概要 |
マウス精巣では、出生後数週間をかけて、均一と考えられている前駆細胞の集団から、幹細胞とそこから生まれる分化細胞が恒常的に共存する定常状態が成立する。この時、すべての前駆細胞が一旦幹細胞になるのではなく、幹細胞となって長期間にわたって自身を維持したまま分化細胞を作り続ける細胞と、幹細胞とならずに直接分化過程に入る細胞 (いわゆるfirst wave) が生まれることが知られている(Yoshida et al., 2006)。本研究では、精子幹細胞となって次世代に高い確率で伝わる細胞系譜と、first waveとなってほぼ次世代を生み出さない細胞系譜がどのように別れるのかを検討した。出生直後の前駆生殖細胞をパルス標識した後、標識された細胞の分化状態を経時的に解析した。低頻度で標識することで単一細胞に由来する子孫(クローン)の系譜追跡を可能とした。その結果、幹細胞となる細胞とfirst waveとして分化する細胞の運命は、出生直後にはすでに方向づけがなされていることを強く示唆する結果を得た。また、成体精巣で起こる恒常的な精子形成を支える幹細胞の間の競合を生み出す分子メカニズムとして、限られた量の増殖因子を競合することが重要な役割を果たすことを示す結果を得た。その一方で、競合において優位性を獲得すると期待される変異を精子幹細胞に導入することは達成されなかった。デザイン通りの遺伝子改変に成功したものの、個体レベルでは予想通りの誘導が得られなかった。
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