研究実績の概要 |
今年度は、精子幹細胞が限られた量の細胞外自己複製因子(線維芽細胞増殖因子)をお互いに競合することが、精子形成の長期にわたる定常状態を生み出すと同時に、一連の精子幹細胞の運命追跡実験(Nakagawa et al., 2007, Klein et al., 2010, Hara et al., 2014)によって示されていた幹細胞の競合の分子的実体であることを示唆する研究代表者らの知見(Kitadate et al., 2019)を基盤として、成体の継続する精子形成における幹細胞間の競合の分子メカニズムの解析を進めた。まず、他の自己複製因子の変異マウスの幹細胞動態の解析から、同様の競合のメカニズムが線維芽細胞増殖因子に限られるものではなく、広く成り立っていることを示唆する結果を得た。これは、この単純な原理が一般性をもって動物の組織構築の基盤となる可能性を示唆する。さらに、線維芽細胞増殖因子をめぐる競合を優位に勝ち残ってテリトリーを広げていく性質を幹細胞に与えると期待される変異を、細胞種特異的かつ誘導的に導入するマウスを作出した。これは、本研究で当初作出を試みたものの期待通りのマウスの作出には至らなかったものについて、遺伝子改変のデザインを変更して新たに作出したもので、デザイン通りの遺伝子構造を持つマウス系統の樹立に成功している。本研究期間中に解析はかなわなかったが、この系統を用いて成体精子幹細胞に変異を自在に導入するとともにその子孫の運命を追跡することが可能となり、精子幹細胞競合研究にとって有用な実験系を確立することができた。
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