研究課題
ボルボックス系列緑藻の同型配偶ヤマギシエラ(Yamagishiella)と異型配偶ユードリナ(Eudorina)は、無性生殖と体制で顕著な差が見られないにもかかわらず有性生殖過程が異なり、雌雄性獲得前後の状態が現存しているといえる。本年度はこれらの両生物の両性のde novo 全ゲノム配列データから既知の性特異的コード遺伝子のホモログとその有無を探索し、性決定領域を見出した。両者の性染色体領域は極めて小さく、オス(マイナス交配型)では性特異的遺伝子MIDだけが共通していた。このことはMIDの制御下の常染色体領域の遺伝子が同型配偶のマイナス交配型から異型配偶のオスの進化に大きく貢献していること示唆する(浜地ら 2016, 日本植物学会第80回大会発表)。ボルボックス系列のうち、平板状群体から球状群体への進化は、ボルボックス科(Volvocaceae)と、ゴニウム科のアストレフォメネ属(Astrephomene)の、2つの系統で独立に起こったとされています。このうちボルボックス科は発生過程において、自身の細胞層を裏返す「反転」という特徴的な形態形成運動を行なうが、アストレフォメネは発生過程で反転を行なわずに球状群体を形成することが知られていた。しかし、これまでアストレフォメネの詳細な発生学的解析は行なわれていなかった。本年度は、野外試料より確立したアストレフォメネの新規培養株と、ボルボックス科の比較対象としてユードリナ(Eudorina)を用いて、光学顕微鏡タイムラプス撮影による発生の詳細な連続観察を行なった。アストレフォメネでは各細胞質分裂の間に娘原形質体の回転が起こり、それによって細胞分裂面の角度が変化することで細胞層が徐々に球状となっていくことが示唆された(Yamashita et al. 2016, BMC Evol. Biol.)。
2: おおむね順調に進展している
次世代シーケンサーPacBioとIllumiaを用いて構築した群体性ボルボックス目の代表的な中間的進化段階の生物(同型配偶ヤマギシエラ、異型配偶ユードリナ)の両性のドラフト全ゲノム配列から両者の性染色体領域が確定して論文としてまとまりつつある。また、両生物のオルガネラゲノムの論文も印刷中(Hamaji et al. 2016, Genome Biology & Evolution)であるから。
同型配偶ヤマギシエラ、異型配偶ユードリナ)の両性のドラフト全ゲノム配列から確定した性染色体領域は極めて小さく、オス(マイナス交配型)では性特異的遺伝子MIDだけが共通していた。従って、MIDの制御下の常染色体領域の遺伝子が同型配偶のマイナス交配型から異型配偶のオスの進化に大きく貢献していることが推測される。従って、今後同型配偶ヤマギシエラと異型配偶ユードリナのMIDの標的遺伝子を探索する予定である。標的遺伝子を明らかにするためにMID抗体作成し、これをを用いてChIPシーケンス解析を実施する。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 4件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 3件、 招待講演 2件)
Phycologia
巻: 56 ページ: in press
DOI: 10.2216/17-3.1
Genome Biology and Evolution
巻: 9 ページ: in press
doi:10.1093/gbe/evx60
BMC Evol. Biol.
巻: 6 ページ: 243
DOI: 10.1186/s12862-016-0794-x
Scientific Reports
巻: 6 ページ: 29209
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PLOS ONE
巻: 11 ページ: e0158944
doi:10.1371/journal.pone.0158944