本研究は 、数百~数千年前に日本に侵入したと考えられる絶対単為生殖型ミジンコ(Daphnia pulex)を対象に、異なる遺伝子型集団(クローナル個体群)間のニッチ分化と同所的共存機構を明らかにすること、具体的にはFrozen niche仮説、Strong similarity仮説及ひ本研究て提案する競争回避仮説の妥当性を、野外調査と実験及びゲノム解析を組み合わせて検証することを目的としている。研究にあたっては、(1)野外調査、(2)ニッチ測定、(3) 競争実験、 (4)ゲノムシーケンス解析、(5)遺伝子発現解析を実施した。このうち本年度は、 (2)(5)の生活史形質、形態形質、消化酵素活性及び休眠卵生産能力の比較解析実験を重点的に行った。 なお、実験に用いたクローン(遺伝子型)は、それぞれ独立に日本に侵入したと考えられる4系統(JPN1~4)のいずれかに含まれ、系統内クローンは日本に侵入後に派生したものであることが(4)による前年度までの解析で確認されている。よって本年度の実験から、遺伝的に容易に変化しやすい形質(系統内比較)としにくい形質(系統間比較)を調べることが出来た。その結果、消化酵素活性などいくつかの形質は、比較的容易に変化しやすい遺伝形質であること、さらに休眠卵生産能力も系統間よりは系統内での変異が大きいことが分かった。前年度までの実験で、系統間では競争能力に差があり、複数のD. pulexクローナル個体群個体群の同所的分布はFrozen nich仮説やStrong similarity仮説では説明出来ないことがわかっており、本年度の実験で休眠生産能力は容易に変化しやすく、競争劣位クローンには休眠卵生産能が高いものがいることがわかった。これら結果から、ミジンコクローナル個体群の同所的共存は休眠卵生産による競争回避によって生じている可能性が裏付けられた。
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