研究課題
松村は篠田とともに、インドネシアのグアハリマウ遺跡の形態解析とゲノム解析を終え、オーストロネシア集団の中国南部台湾からのOut of Taiwan仮説の完全実証に至る成果を得て、論文をPlosOneに投稿した。また中国福建や台湾での国際シンポジュウムでも同成果を公表し注目を得た。一方ベトナムのBau Du遺跡の発掘調査により、完新世中期のパプアサフール系集団の存在と独特な屈葬埋葬習慣や嗜好性植物(カナリウム)を明らかにし、これらの特徴が同時期以前の中国、東南アジアに居住した広域の先住狩猟民に共通することがわかった。またサピエンスのアフリカからの移住ルート解明のため、アフリカ集団とヨーロッパ旧跡時代人の3次元形態データを採取した。海部は、日本列島への渡来集団を類推することを目的として、長崎県の縄文早~前期人骨について形態特徴を報告した。またインドネシアのスラウェシ島・マロス石灰岩地帯で発掘調査中の遺跡とジャワ島のバンドンに所在する研究機関を訪問し、当地の旧石器時代人骨についての形質学的研究を開始した。斎藤は、インド洋アンダマン諸島、マレー半島、フィリピン諸島に分布するネグリトのゲノム規模SNPデータを解析し、彼らがパプア人・オーストラリア原住民との共通祖先から3~5万年前に分岐し、そこから東アジア人が進化したことを裏付けるデータを得た。また、オーストラリア先住民・パプア人に次いで、ルソン島のアエタネグリトがデニソワ人からのゲノムを受け継いでいる割合が高いことを発見した。彼らと2万年ほど前に分岐したマレー半島のネグリト人にはデニソワ人のゲノムがほとんど伝わっていないので、分岐後にゲノム移入があった可能性がある。篠田はグアハリマウに加え、Batanes Islands の Diosdipun Caveから出土した人骨のDNA分析を行い、東南アジアに多いハプログループを見いだした。
2: おおむね順調に進展している
インドネシアのグアハリマウ遺跡の成果は論文投稿にまでいたり。海外でも高い評価を得たこと、ベトナムでの遺跡の発掘調査の分析も順調であること、ヨーロッパの博物館等でホモサピエンスの移住ルート解明に向けてアフリカとヨーロッパのデータ採取に着手できたこと、など確実に研究が進展している。またゲノム研究においてもアジア人のルーツの根幹部分に関わる解明がなされつつある。
(1)ユーラシア・サフールの現代人全集団の3次元頭骨形態データを蓄積する(2)アジアの旧石器時代のサピエンスのデータの充実をはかる(3)マレーシア・インドネシア・フィリピンの人類集団のゲノム解析のための対象試料を拡充させる(4)東京大学理学部に保管されているスリランカのヴェッダ集団のDNA解析を継続する。(5)韓国人と中国人のミトコンドリアDNA完全配列データから過去の人口変動を推定する(6)ネグリト3集団の全ゲノムデータを他集団のゲノムデータと比較しアジア人の基層集団の由来を明らかにする(7)以上の過程を経てユーラシア集団の移住ルートの解明と二層構造モデルを構築する
すべて 2018 2017 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 3件、 査読あり 6件) 学会発表 (18件) (うち国際学会 5件、 招待講演 15件) 図書 (8件)
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