研究課題
ホモ・サピエンスの東ユーラシア拡散の人類史を解明するため、アジア各地域の先史から現代の人骨形態データの収集と解析ならびにゲノム解析をおこなっており、その有力仮説としてホモ・サピエンス拡散の二層モデルを構築するにいたっている。その骨子は、約5万年前にアフリカを出たホモ・サピエンスが、ユーラシア南部からサフールへと拡散したグループと、ユーラシア北部シベリアを横断し北東アジアに移住した集団に分岐し、後者は完新世の中国において農耕技術を発展させ、新石器時代に農耕とともに中国南部と東南アジアに急拡散したこと、農耕民の人口増加率の高さから採集狩猟民とは広範囲に置換が生じたとするシナリオである。この仮説は、人骨形態のみならず分子遺伝学を専門とする分担者および海外研究協力者によるベトナムの先史時代人骨、縄文人やインドネシアのグアハリマウ遺跡あるいは現代ののネグリトなどのゲノム解析からも支持され、先住の南方由来の採集狩猟民と北方ユーラシア集団とは、出アフリカ直後に分岐した可能性も示唆されている。以上の研究過程において、中国南部・東南アジアの南方由来の先史採集狩猟民の多くがニューギニアの人々と共通する頭骨形態をもつことが解明されているが、付随するユニークな知見として、これらのユーラシア南部の先史採集狩猟民が、ニューギニア高地人の風習として知られている「燻しミイラ」の製作をおこなっていた可能性も示唆されており、集団の系譜のみならず、このような文化における共通性もみいだされていることで、注目されている。形態分析では、出アフリカからのルートをより明確にするため、ヨーロッパの旧石器人とアフリカ人の頭骨形態データも充実させている。また従来のマルチン式計測データに加え、3次元スキャナを用いての「位相モデル解析」という新手法による形態分析の実施に向けての準備とデータを収集をおこなっている。
2: おおむね順調に進展している
ユーラシア東部へのホモ・サピエンス拡散モデルを展開にいたった形態と遺伝による研究成果は、査読国際誌での公表にいたっており、国際学会においてもプレナリーセッションでの講演を招待されるなど海外において大変注目されている。同時に研究に重要な先史人骨の新資料発見のために発掘調査をおこなってきたインドネシアのグアハリマウ遺跡についても、その研究成果を論文に公表にいたっており、研究計画は順調に進展しているといえる。また従来のマルチン式骨計測に加え、3Dスキャナーによる頭骨の表面座標形状データを用いた新手法による解析を開始しているが、試行錯誤により短時間で正確かつ効率よくデータ採取する技法を開発したため、多くのサンプルからのデータが蓄積されつつあり、本格的な分析にむけて順調にデータ蓄積が進捗している。ゲノム関連では分析精度が上がったことにより、多くのゲノム領域の解析が可能になっており、縄文人の広領域の遺伝子解析の成功やネグリトからのデニソワ人の遺伝子がみつかるなど大きな成果をあげている。またアジアの先史採集狩猟民が現代のニューギニア高地人と同系であることから、埋葬様式などの文化的風習をも比較したところ、ニュ-ギニア人の伝統的葬制である「燻しミイラ」の製作を、中国南部および東南アジアの先史採集狩猟民もおこなっていた可能性を示唆する所見を埋葬人骨から得ており、こうした想定外の発見にも至っている。
形態研究については従来計測法による分析については一区切りをつけており、3次元形態データによる分析に移行しつつある。そのための3次元表面形状データはこれまでにない規模で全世界から100集団以上250体におよぶ頭骨スキャンデータを収集できており、これまで東アジア、東南アジア、オセアニア地域に限られていた形態データもアフリカ、ヨーロッパまで対象を広げてデータを収集していることから、アフリカとユーラシア東部を結ぶホモ・サピエンスの拡散ルートの一層の解明が期待される。今後の解析のためのソフトウェアも準備がととのっており、本研究計画の期間終了までに新手法によるサピエンスの系統解析の結果が得られるものと期待される。またスラウェシから発見された新たな更新世人類の形態研究も本格的にとりかかる準備ができている。いっぽうで先史人類のゲノム解析も着実にすすんでおり、縄文人については想定をこえる広領域のゲノム解析に成功しており、ミトコンドリアDNAの解析にとどまっていたインドネシアのグアハリマウ遺跡の人骨についても核ゲノム解析もすでに一部成功していることから、今後さらに質量ともに十分な結果を得られるものと期待される。
2019年度中に上記(2)のサイトに本科研費に関する成果公表の専用ページを公開する予定
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