研究実績の概要 |
本研究では、形態とゲノムデータをもとに、脱アフリカした現生人類がいつどのようなルートで拡散し現在にいたったかの解明を目的としている。その結果として、ホモ・サピエンス拡散の二層モデルを提唱するに至った。その骨子は、日本を含むユーラシア東南部の先史採集狩猟民は、アフリカからユーラシア南部を経て拡散し、ニューギニアやオーストラリア先住民とも共通の祖先を有する人々で構成され、そのいっぽうでシベリア北部を横断し最寒期を生き抜いた北東アジア人が黄河揚子江域での農耕開始を境に急速大規模に拡散し、熱帯由来の先住狩猟民と交替したとするモデルである。この仮説は代表者の松村による先史人骨の形態データから導かれたものであるが、分担者(篠田・斎藤)らによるゲノム共同研究からも、たとえば日本の縄文人やネグリトやホアビニアン人などが、他のユーラシア人とは早期に分岐した集団である可能性が示唆され、二層モデル仮説と矛盾のない知見が得られている。さらに興味深いことに、フィリピンのネグリトにウーレシア以遠の現代人にしか見つかっていなかったデニソア人との混血の証拠がみいだされている。これらに関連して松村の形態研究はかつての台湾にもネグリトが居住していたことや、分担者の海部により、アジアへの最初のサピエンスの拡散年代が4万年前後であることも提示された。これらの研究成果は,Scientific Report, Genome Biology and Evolution, World Archeologyなどに掲載され、台湾ネグリトの論文はダウンロード数2万以上、二層モデル論文は1万1千件のアクセスにいたっている。ほかにDavid Reighらとのゲノム共同研究によるNature 2本の論文も成果として特筆される。代表者の松村は本研究の成果を含めた生涯の業績が評価され、日本人類学会賞を授かった。 、
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