研究実績の概要 |
還元末端にGlcNAc残基を有する3つの部分N-脱アセチルキチン3糖(partially N-deacetylated chitin trimer, DAC3糖)のうち,未合成であった残り1つのGlcNAc-GlcN-GlcNAcを化学合成により調製した。すでに合成済みのGlcN-GlcN-GlcNAcおよびGlcN-GlcNAc-GlcNAcの計3種のDAC3糖およびキトサン3糖それぞれについて,イネ根におけるAM共生マーカー遺伝子および防御応答関連遺伝子の発現誘導活性についてqRT-PCRにより調べた。その結果、GlcN-GlcN-GlcNAc, GlcNAc-GlcN-GlcNAc, キトサン3糖により共生マーカー遺伝子および防御応答関連遺伝子の発現誘導が見られた。一方,GlcN-GlcNAc-GlcNAcではマーカー遺伝子の発現はほとんど誘導されなかった。続いて,イネのOsCERK1欠損変異体,OsCCaMK欠損変異体にDAC3糖混合物を処理し,マーカー遺伝子の発現誘導を調べた。その結果,野生型と同様に共生マーカー遺伝子および防御応答関連遺伝子の発現が誘導された。OsCERK1およびOsCCaMKは共通共生経路 (Common Symbiotic Signaling Pathway, CSSP) を構成する遺伝子であることから,DAC3糖が活性化する共生経路はCSSPとは異なる経路であることが示唆された。さらに,CSSPを活性化させるAM菌由来の共生シグナルとして報告されているMyc-LCOおよびキチン4糖をDAC3糖と同時に処理し,マーカー遺伝子の発現誘導を調べた。その結果,DAC3糖を単独で処理したものと同様の遺伝子発現プロファイルが認められた。このことから,DAC3糖が引き起こす共生応答はMyc-LCOとキチン4糖の影響を受けないことが示唆された。
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