研究課題/領域番号 |
16H02556
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
五味 高志 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (30378921)
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研究分担者 |
恩田 裕一 筑波大学, 生命環境系, 教授 (00221862)
戸田 浩人 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (00237091)
白木 克繁 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (30313290)
山本 一清 名古屋大学, 生命農学研究科, 准教授 (40262430)
山浦 紘一 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 特任助教 (80645523)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 森林管理 / 流域水循環 / 蒸発散 / 水流出 / 土壌侵食 / 流出モデル |
研究実績の概要 |
平成30年度の研究実績として、これまでの観測データを整理するとともに、流出モデルの構築と解析を行ってきた。複数のスケールを対象とした観測に加え、岩盤地下水のモニタリングにより、流出プロセスの岩盤地下水の寄与についてまとめた。これらの成果は、間伐による水流出量変化の評価を短期水収支法で解析する際に、岩盤地下水の応答と寄与を考慮する上で重要となる。また、森林管理後の林分状態の評価では、強度列状間伐後に林床植生の成長が著しく、林床植生が水循環に影響を及ぼしていると考えられ、それらの評価のために森林斜面スケールの蒸散の詳細観測を進めた。とくに、間伐後に林床にササが繁茂する場合があり、ササの蒸散量を茎熱収支法により測定した結果、上層林分に対して、おおよそ半分程度の蒸散量があることを特定できた。これらの観測に加えて、単木やタワーフラックス観測も継続した。斜面の浸透や炭素循環については、放射性同位体を用いたトレーシングにより、落葉から土壌への分解過程、渓流での分解過程を評価するとともに、土壌侵食による炭素流出への影響評価を行った。以上のような水と炭素動態二冠する多面的観測から、間伐などの施業を実施した林分での水・炭素循環の変化の実測データの蓄積、水および炭素循環の定量化を進めることができた。また、小流域を対象とし、航空機レーザー測量による森林環境センシングの技術について、林分の樹木を抽出する手法について確立するとともに、林床植生状況をセンシングできる手法として、ドローンや林内に架線を張り巡らせ、架線上にカメラを取り付けて林内や渓流をセンシングする新たな方法を確立した。斜面から河川、さらには流域スケールでの多様なデータの蓄積により水と炭素循環に関するプロセスの解明と分布型流出モデルによる解析を進めることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
東京農工大学FM唐沢山を中心とし、大学演習林での流出データの解析、森林状態による蒸散量の評価に関する解析を行った。これまでの観測から、新たに林床植生が水循環に及ぼす影響の評価が重要であることが指摘でき、林床植生の遮断や樹幹流、さらには蒸散量など多様な観測を進めることができた。特に、林床植生の機能評価では、土壌水分の観測および水の安定同位対比のサンプル採取を実施し、土壌中における水が植物の水利用により変化する量的・質的解析を実施することができた。また、林床植生を除去した場合と、林床植生がある場合についての比較検討を行った。これらの成果の一部は、国内外の学会に発表することができた。 従来、スギやヒノキなどの人工林がを主体として継続してきか観測を、広葉樹林流域を対象として発展することもできた。近年、里山の管理放棄などが問題となっており、里山整備の重要性が指摘されているものの、里山の水循環に関する実証的なデータの蓄積はほとんど無かった。そこで、コナラやクリを主体とした林分における施業を実施し、水流出の観測を開始することができた。さらには、施業による水流出と炭素循環の影響評価について、渓流内の水温変動も重要であり、新たに施業後の水温変化の評価を行うことができた。水温変動の予測を行えるモデルの構築を進めるための、観測も開始した。神奈川県の観測施設では、2か所の流域において、流出量や炭素・窒素の流出についての研究を進めることができた。 土壌侵食が顕著な流域においては、侵食量の定量評価にむけた斜面プロットの土砂移動量とともに、落葉などの炭素動態としての有機物流出量の評価を行った。広域スケールでは、航空機レーザーデータを用いた林分評価を行い、森林管理による水文過程の変化、水流出量変化、土壌侵食のデータなど既往データの整備を行い、分布型水流出モデルによる解析をおこない論文として受理された。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに構築したデータベースおよび観測データをもとに、水・炭素循環評価指標の構築を進める。データベースおよびArcGISにより作成した森林管理空間分布図などの解析も行う。これまで、スギやヒノキ林などの人工林を対象としたFM唐沢山を中心に研究を行ってきたが、森林管理上重要となる広葉樹林の観測もすすめ、広葉樹林の施業効果の検証を行う予定である。それにより、人工林から広葉樹林までの多様な林分での森林管理と水循環モデルを統合したシステムを構築する。とくに、これまでの研究では林床植生の重要性が解明されてきたことから、森林施業後に林床植生の成長などを考慮する管理シナリオなども検討する。そのためには、林床植生の蒸散量の評価が重要であることから、茎熱収支法などによる林床植生の上山稜評価を行う。これにより、多様な林分構造をもつ森林管理への応用展開とともに、水循環や炭素循環における林分、林床、土壌の相互作用を解明し、流域スケールでの水・炭素循環の解明を進める。海外との連携による解析などを充実するとともに、コロラド州立大学、ベトナム林業大学との国際共同研究による論文の執筆を進める。今後のデータ解析と論文作成など実質的な共同研究を進める。とくに、森林管理と水循環や炭素循環を網羅的にまとめる総説も重要であり、それらの準備を行っていく。森林の機能評価とともに、適切な森林管理の在り方について、都道府県の森林担当者などとの意見交換から研究のアウトプットや社会実装を検討する。森林状態の変化、気象条件の変化などを考慮した将来予測なども検討していく。
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