研究課題/領域番号 |
16H02560
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
渡邊 隆司 京都大学, 生存圏研究所, 教授 (80201200)
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研究分担者 |
入江 俊一 滋賀県立大学, 環境科学部, 准教授 (30336721)
磯崎 勝弘 京都大学, 化学研究所, 研究員 (30455274)
西村 裕志 京都大学, 生存圏研究所, 研究員 (50553989)
片平 正人 京都大学, エネルギー理工学研究所, 教授 (70211844)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | リグニン / セルラーゼ / 糖質結合モジュール / バイオマス / 白色腐朽菌 / リグニン分解酵素 / バイオリファイナリー / 酵素糖化 |
研究実績の概要 |
本研究では、リグニン親和性ポリペプチド鎖をリグニン分解酵素や合成触媒に組み込むことにより、リグニン近傍へ酵素や人工触媒をデリバリーしてリグニン分解の反応性や選択性を高める分野を開拓することを目的として研究を実施した。リグニン親和性ペプチドC416のタンデムダイマーを白色腐朽菌カワラタケのN末とC末に連結した変異酵素をPichia pastrisで発現し、メディエーター存在下、および非存在下で微粉砕木材との反応した後、反応物をチオアシドリシスで解析した。その結果、リグニン親和性ペプチドC416のタンデムダイマーを連結することにより、リグニン主要結合であるβ-O-4結合の分解性が高まる結果が得られた。リグニンの分解率は、メディエーター存在下の方が高く、リグニン親和性ペプチド結合による分解率向上効果も顕著であった。 リグニン親和性ペプチドC416やそのタンデムダイマーにスギやユーカリの単離リグニンを添加するとペプチドのコンフォーメーションが変化することを見出し、論文発表した。 さらに、N15ラベル化した糸状菌Trichoderma reesei Cel7AのCBMを単独発現し、リグニンの結合を二次元NMRで解析した。その結果、CBMとセルロースとの結合が底面のトリプレット疎水性アミノ酸やその反対側にあるクレフトで選択的に起こるのに対し、リグニンとの結合では、タンパク表層の多くの場所が関与することを明らかにした。また、このCBMを白色腐朽菌Phanerochaete chrysosporium のリグニンペルオキシダーゼ(LiP)主要アイソザイムH8と連結したタンパクをヒラタケで発現する実験を実施した。金属ナノ触媒にリグニン親和性ペプチドを結合する反応については、合成した金属ナノ触媒が酸化活性を保持した状態でペプチドを結合する合成法の開発を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
リグニン親和性ペプチドC416のタンデムダイマーを白色腐朽菌カワラタケのN末とC末に連結した変異酵素をPichia pastrisで発現し、メディエーター存在下、および非存在下で微粉砕木材との反応した後、反応物をチオアシドリシスで解析した。その結果、リグニン親和性ペプチドC416のタンデムダイマーを連結することにより、β-O-4結合の分解性が高まる結果が得られた。リグニンの分解率は、メディエーター存在下の方が高く、リグニン親和性ペプチド結合による分解率向上効果も顕著であった。 リグニン親和性ペプチドC416やそのタンデムダイマーにスギやユーカリの単離リグニンを添加するとペプチドのコンフォーメーションが変化することを見出し、論文発表した。 さらに、リグニン親和性をもつ糖質結合モジュールである糸状菌Trichoderma reesei Cel7AのCBMとリグニンの結合を、二次元NMRで解析し、CBMとセルロースとの結合が底面のトリプレット疎水性アミノ酸やその反対側にあるクレフトで選択的に起こるのに対し、リグニンとの結合では、タンパク表層の多くの場所が関与することを明らかにした。また、このCBMをリグニンペルオキシダーゼ(LiP)と連結したタンパクをヒラタケで発現する実験を実施し、現在、活性を保持した酵素を高発現する条件を探索している。金属ナノ触媒にリグニン親和性ペプチドを結合する反応については、合成した金属ナノ触媒が酸化活性を保持した状態でペプチドを結合する合成法の開発を進めており、合成後詳細な反応性を検討する予定である。 以上のように、金属ナノ粒子とLIP融合タンパクの研究は、やや遅れているが、リグニン親和性ペプチドの結合効果をラッカーゼで明らかにし、CBMとリグニンの結合について分子レベルでの解析に成功したことから概ね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
リグニン親和性ペプチドC416のタンデムダイマーを結合させた白色腐朽菌カワラタケ由来ラッカーゼのリグニン分解促進効果を示した。現在、二次元NMRにより反応物の解析を進めており、芳香環や側鎖の構造変化を詳細に解析して、リグニン分解酵素にリグニン親和性ペプチドを結合する効果を明らかにする。反応は、メディエーター存在下、および非存在下で実施する。また、SPRを用いて、融合タンパクとnative酵素のリグニンへの吸着挙動を明らかにし、分子モデリングと合わせて、リグニンへの結合性と酵素の構造の関係を考察する。 リグニンペルオキシダーゼ(LiP) とTrichoderma reesei Cel7AのCBMの融合タンパクについては、活性を保持した状態でヒラタケが変異酵素を発現する条件をさらに詳細に検討し、酵素を精製後、ユーカリやスギ由来の単離リグニンや微粉砕木粉との反応性を二次元NMRや化学分析により解析する。また、融合タンパクを発現する組換え菌による腐朽実験を行い、二次元NMRやチオアシドリシスなどの化学分析を用いて野生型の菌との腐朽パターンの違いを明らかにする。Trichoderma reesei Cel7AのCBMについては、N15ラベル化タンパクを調製してリグニンとの結合を二次元NMRで解析する研究を実施している。このタンパクとリグニンの結合に関する研究結果を、LiPとCBM融合タンパクの反応性の解析に展開する。 金属ナノ粒子触媒にリグニン親和性ペプチドを結合する反応については、合成した金属ナノ触媒が酸化活性を保持した状態でペプチドを結合する合成法の開発を急ぎ、合成後詳細な反応性を検討する。2.45 GHzのマイクロ波を照射し、効率的な分解が進行するか否かを、通常加熱と比較しつつ解析する。リグニン親和性ペプチドを結合させていない金属ナノ粒子触媒との比較実験も実施する。
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