研究課題/領域番号 |
16H02581
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
中野 浩平 岐阜大学, 大学院連合農学研究科, 教授 (20303513)
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研究分担者 |
黒木 信一郎 神戸大学, 農学研究科, 助教 (00420505)
吉田 誠 神奈川県農業技術センター, 生産環境部, 課長 (20503650)
蔦 瑞樹 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 食品研究部門, 上級研究員 (80425553)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 鮮度 / 青果物 / カルボニル化合物 / リピドミクス / 質量分析 |
研究実績の概要 |
本研究は、貯蔵・流通環境ストレスに対する収穫後農産物の脂質代謝の応答をリピドミクス(脂質成分の網羅解析)によって明らかにしながら、鮮度を反映するマーカー代謝物の発見と、分光学手法あるいはガス分析手法によってそれらを簡便に検出して定量的な鮮度評価を実現する基盤技術の開発を目指すものである。 本年度は、脂質の過酸化・分解反応の最終生成物であるカルボニル化合物群についてのプロファイリングを中心に試験を実施した。実験では、貯蔵温度・貯蔵時間の異なる大豆モヤシから得たメタノール抽出液にダンシルヒドラジン(DH)を添加してカルボニル化合物を選択的に誘導化した。次に、C8カラムを装着した高速液体クロマトグラフィーによって逆相系で分離して、三連四重極型質量分析計により誘導化体の検出を試みた。質量分析では、ポジティブモードのエレクトロスプレーイオン化を行い、Q1をm/z275~550の範囲で1Daずつ走査させ、且つ、Q3をDHのフラグメント由来のm/z171に固定した計275トランジションによるMultiplexed-MRM(多重反応モニタリング)モードで一斉検出した。その結果、100前後のカルボニル化合物由来のピークが認められた。同時に、貯蔵中の呼吸速度を通気法により連続的にモニタリングして収穫からの積算呼吸量を得た。主成分分析並びにPLS回帰分析により、積算呼吸量の増加に寄与するカルボニル化合物種、並びに、カルボニル化合物量を独立変数として積算呼吸量を説明するモデルについて検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、青果物の老化に伴うカルボニル化合物群の変化について、質量分析による一斉検出のための計測法を確立してそれらのプロファイリングに成功した。さらに、主成分分析やPLS回帰分析により、積算呼吸量の増加と関連のある代謝物について質量電荷比による絞り込みができた。しかしながら、中核となる三連四重極型質量分析計の導入が遅れたために、鮮度マーカーとなる代謝物の構造決定までには至らなかった。それに伴い、それらマーカー物質を分光学的方法によって検出する試験において期待する成果を得られていないため、標記のような自己評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までに明らかとなった鮮度マーカー候補のカルボニル化合物群について、三連四重極型質量分析計のプロダクトイオンスキャンによるマススペクルを取得する。標品やライブラリー情報とのマッチングによって構造推定を行い、以降の蛍光指紋法や近赤外線分光法による簡便な鮮度計測法の開発におけるリファレンスとする。分光学的手法における鮮度マーカー代謝物の検量モデルの作成には、スペクトルデータのパターンマッチング等のデータマイニング手法を駆使する。次年度以降は、脂質過酸化の最終生成物であるカルボニル化合物のみならず、リン脂質や糖脂質、脂肪酸について、三連四重極型質量分析計のプレカーサーイオンスキャンやニュートラルイオンスキャンによる一斉検出を行い、積算呼吸量の増大に伴って有意に変化する脂質分子種を明らかにする。さらに、脂質分解に由来する揮発性化合物についてもガスクロマグラフィー質量分析計により同定・定量する。その際、貯蔵環境における温度のみならずガス組成等を変化させ、多様なストレス環境下での脂質代謝の応答について議論する。同時に、脂質代謝に関連する遺伝子発現解析を実施し、青果物における収穫後の老化現象について、脂質代謝の観点からの理解につながる基礎データを蓄積する。
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