研究課題/領域番号 |
16H02584
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
今川 和彦 東海大学, 総合農学研究所, 教授 (00291956)
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研究分担者 |
草間 和哉 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特任助教 (30579149)
櫻井 敏博 東京理科大学, 薬学部薬学科, 助教 (70568253)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 子宮内環境 / トロホブラスト細胞 / 子宮内膜 / 遺伝子発現 / 着床 |
研究実績の概要 |
(1)子宮内腔液から得たタンパク質や代謝産物の情報から、子宮内環境構築に向けた候補因子の絞り込みを継続し、子宮内環境構築のための最小限遺伝子を特定する。ここでは新規タンパク解析(iTRAQ)法を用い、1933種類のタンパク質が子宮腔内に存在することを見つけた。次に、1933種類の子宮灌流液タンパク質からバイオインフォマテックおよび当研究室が保有するウシ胚トロホブラスト細胞と子宮内膜上皮細胞の共培養実験系を駆使し、機能を確認しながら、8種類のタンパク質を子宮内環境構築のためのタンパク群として同定した。 (2)ウシには胎盤形成に必須な細胞融合能をもつ遺伝子として、当研究室が共同研究で発見したBERV-K1とフランスのグループが発見したSyncytin-Rum1が存在する。両遺伝子の精査によりBERV-K1がSyncytin-Rum1に比べ、内在化した年代が新しいこと、細胞融合能を検証するとBERV-K1がSyncytin-Rum1よりも優れていることから、ウシ胚はBERV-K1を優先的に使い、胚トロホブラスト細胞の融合を行っていることが考えられた(2015年に発表した「融合機能のバトンタッチ」を裏付ける)。そこで2018年はこの両方の内在性レトロウイルス遺伝子の発現調節機構の解明を行なった。 (3)ウシ・トロホブラスト細胞CT-1細胞だけではなくF3細胞と共に、2核、3核細胞の形成機構に迫る。当初、何故、細胞の接着と乖離が同時進行するのか分からなかった。本研究より、トロホブラスト細胞の子宮内膜接着中に上皮間葉系転換(EMT=細胞の乖離)が同時進行しているときに、細胞の多核化が起こることを見出した。胎盤の形成が妊娠の成立と安定化を示すならば、その成立のためには細胞の多核化が起こらなければならない。これを成し遂げるために、子宮内では両細胞の接着と乖離が同時進行されなければならない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
妊娠のための子宮内膜の構築に必要な最小タンパク質群は、子宮灌流液中の1933種類からたった8種類にまで絞りこむことができた。これは単にバイオインフォマテックを使い絞り込んだのではなく、当研究室が保有するウシ子宮内膜上皮細胞とウシ胚トロホブラスト細胞による共培養系を駆使しながら、子宮内環境を模倣することによって絞り込んだものである。 ウシ内在性レトロウイルス遺伝子に関しては、その発現制御をあぶりだし、米国ニューオーリンズで2018年7月に開催された生殖の国際学会(Society for the Study of Reproduction)にて発表した。 子宮内環境の構築では、ウシトロホブラスト細胞の子宮内膜への着床時に癌の転移で見られる上皮間葉系転換(EMT)EMTが起こらなければいけないこと、また、それが他の遺伝子発現の中で同時進行しなければならないことを証明し、これも米国ニューオーリンズで開かれた国際学会にて発表した。
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今後の研究の推進方策 |
子宮内環境の構築は、これまでの通りウシ子宮内膜細胞とトロホブラスト細胞の共培養系を駆使しながら進めていく。これまで単に一つとか二つ(あるいは少数)の遺伝子発現をコントロールすれば着床環境が再現できると考えられてきたが、着床の進行には「両細胞の接着」と「乖離現象」が同時に進行しなければならないことを発見したことにより、この2つの現象の再現・構築法が妊娠のための改な知見となり得る。また、それをどこかで制御することにより不受胎を作り出すこと(新たな避妊技術)も可能となろう。 いずれにしても、着床現象は一地点での模倣ではなく、着床現象と遺伝子発現の流れと捉え、かつ、その再現が「真」の妊娠率向上法になる。
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