研究課題
本研究では、家畜骨格筋における筋肥大と脂肪蓄積の制御機構を解明することを目的に、骨格筋内の異種細胞間コミュニケーション機構について検討した。1. 筋細胞及び脂肪細胞が分泌するエクソソームの解析:培養筋細胞が分泌するエクソソーム量は筋分化に伴い増加した。一方、培養脂肪細胞が分泌するエクソソーム量は分化誘導後一過性に低下し、分化10日目まで増えた。筋細胞から調製したエクソソーム画分をPKH26で標識後、脂肪細胞の培養液に添加したところ、20時間後には脂肪細胞内にエクソソームが取り込まれていた。2. 筋細胞と脂肪細胞との細胞間コミュニケーション:脂肪細胞と筋芽細胞を共培養すると、筋菅形成及び筋管直径は対照区に比べて有意に小さく(p<0.05)、また、筋細胞におけるMyoD及び Myogeninの発現が抑制され、ミオスタチンの発現は高くなった。このような筋分化抑制効果は成熟した脂肪細胞で顕著であった。さらに、グリセロール注入筋損傷誘導モデルを用いて筋再生時における細胞群の動態を観察したところ、筋線維の基底膜や細胞膜が局所的に破綻とともに多数の炎症性細胞(好中球やマクロファージ)が損傷部に遊走し、活性化した筋衛星細胞は6時間後から、前駆脂肪細胞は4日目から多数観察された。3.筋再生における筋衛星細胞と運動神経との細胞間コミュニケーション:衛星細胞が分化初期特異的に合成・分泌する神経軸索ガイダンス因子Sema3Aが筋細胞特異的転写因子(Pax7, Myf5, MyoD)の発現制御に関与していることを見出した。また、筋線維の運動神経支配を解除すると衛星細胞がAPOBEC2を高発現することを見出し、これが衛星細胞の分化・融合を抑制することを示した。APOBEC2をノックアウトすると、分化した衛星細胞が再び休止化し筋幹細胞プールを維持するセルフリニューアル機能も有意に低下した。
2: おおむね順調に進展している
H28年度は、1. 新規コミュニケーションツールとしてエクソソームの解析、2. 筋細胞と脂肪細胞の細胞間コミュニケーション機構、ならびに3. 筋再生における筋衛星細胞と運動神経との細胞間コミュニケーションについて検討を進めた。1 では、培養筋細胞および培養脂肪細胞が分泌するエクソソーム画分を各細胞のステージごとに分析し、その量的変化を把握することができた。また、H29年度に予定していた実験を予備的に進めた結果、筋細胞が分泌するエクソソームが脂肪細胞に実際に取り込まれることも確認できた。現在、筋細胞由来のエクソソームが脂肪細胞に及ぼす影響を検討するために、筋細胞由来エクソソームを取り込んだ脂肪細胞からRNAを調製し、遺伝子発現を網羅的に解析しているところである。2については、筋管細胞が前駆脂肪細胞の分化を抑制することは既に見出していたが、今回、成熟脂肪細胞が筋芽細胞の分化を抑制することを共培養系で明らかにしたことで、筋細胞および脂肪細胞がお互いを制御する機構が存在することを示した。その制御因子の一つとしてミオスタチンが関わっている可能性を示した。また、新たに候補分子として脂肪細胞が分泌する幾つかのサイトカインが関与している可能性が示されたので、H29年度に、これらのサイトカインが脂肪細胞-筋細胞間コミュニケーションツールとして働く機構を詳細に検討する予定である。3については、筋衛星細胞が合成・分泌する神経軸索ガイダンス因子Sema3Aが筋細胞特異的転写因子の発現制御に関与していること、筋線維の運動神経支配を解除すると衛星細胞がAPOBEC2を高発現することを見出し、これが衛星細胞の分化・融合を抑制的に制御していることを明らかにすることができた。以上のように、本研究は概ね順調に進捗している。
1.異種細胞のエクソソームが筋細胞および脂肪細胞の増殖・分化に及ぼす影響:昨年度に引き続いて実施中である「筋細胞由来のエクソソームを取り込んだ脂肪細胞における遺伝子発現」の網羅的解析を優先的に進めるとともに、脂肪細胞由来のエクソソームが筋細胞に及ぼす影響を検討するために、脂肪細胞由来エクソソームを取り込んだ筋細胞からRNAを調製し、遺伝子発現の網羅的な解析を行う。2.筋細胞-脂肪細胞コミュニケーションにおけるサイトカインおよびマクロファージの役割:新たなコミュニケーション候補分子として脂肪細胞が分泌する幾つかのサイトカインが筋細胞の増殖・分化に関与している可能性が示されたので、今年度は、これらのサイトカインが筋細胞の増殖・分化に及ぼす影響を詳細に検討する。また、筋細胞-脂肪細胞コミュニケーションがマクロファージの共存でどのように影響されるかをin vitroで検討する。すなわち、筋細胞と脂肪細胞の共培養系に組織常在型M2マクロファージを加えた場合、各細胞の生理活性因子の分泌パターンの変化をプロテオミクスで、また、各細胞の動態をタイムラプス共焦点レーザー顕微鏡観察法で調べる。3. ECM分子の直接的シグナルによるコミュニケーション:筋細胞および脂肪細胞の細胞膜上の受容体(IGFR, EGFR, ActRIIB,integrin等)と相互作用するECM分子をQCM法で探索する。次に候補ECM分子を添加した無血清培地で筋細胞および脂肪細胞を培養して、各種受容体の活性化を調べるとともに、細胞の増殖・分化様相、分化関連遺伝子の発現を解析する。以上の実験で得られた結果を取り纏め、日本畜産学会およびアメリカ細胞生物学会で成果発表する予定である。
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