研究課題/領域番号 |
16H02590
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
間 陽子 国立研究開発法人理化学研究所, 伊藤ナノ医工学研究室, 研究員 (50182994)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 牛白血病ウイルス / SNPタイピング / RNA-seq / プロウイルス量 / BoLAクラスIIアレル / 相関解析 / 牛感染実験 / MSH2遺伝子 |
研究実績の概要 |
研究代表者らは世界に先駆けて、牛白血病ウイルス(BLV)のプロウイルス量が地方病性牛白血病の病態進行のマーカーになる事を示してきた。本研究では 昨年度にゲノムワイド相関解析により同定したBLVのプロウイルス量を制御する新規宿主側一塩基多型(SNP)マーカーを同定した。本年度は、そのマーカーおよびウシ主要組織適合遺伝子複合体(BoLA)クラスIIアレルを保有する牛を、受精卵移植技術を用いて、産生することに取り組んだ。その結果、5頭のBLV感受性黒毛和種の作成に成功した。続いて、この5頭にBLVを4 x 10^7コピーずつ静脈内接種した。接種後、これらの個体のプロウイルス量の推移を測定し、さらにmRNAの回収を行い、RNA seqによる全ゲノム発現解析を実施した。即ち、抽出したRNAからTruseq RNA sample preparation kitでライブラリーを作成し、Hi-seq(イルミナ社)を用いて、全RNAのシークエンスを行った。 その結果、BLV感染後プロウイルス量が最大となる三週目に、906遺伝子の発現量が増加し、1328遺伝子の発現量が低下していることが明らかとなった。これらの遺伝子の中で、既報の成果から持続的感染牛においても遺伝子の発現量が高かったDNAミスマッチ修復(MMR)に注目した。プロウイルス量の増減と7種類のMMR遺伝子(MSH2, MSH3, MSH6, PMS2, PCNA, UNG, EXO1遺伝子)変動との相関性をリアルタイムPCRにより検証したところ、いずれの遺伝子においても強い相関が見られ、BLVのプロウイルスの増殖にミスマッチ修復に関与する遺伝子が強く関与している事が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究において、プロウイルス量と相関するSNPおよびウシ主要組織適合遺伝子複合体(BoLA)クラスIIアレルを同定した。さらにその新規タイピング方法を構築した。その方法を用いて、感染実験を実施するために、プロウイルス量と相関するSNPおよびBoLAクラスIIアレルを保有する5頭の感受性黒毛和種を受精卵移植技術により作成できたことは大きな成果であると判断できる。さらに、この産生した5頭にBLV感染実験を行ったところ、個体差の大きな牛個体にも係わらず、全ての牛個体で同じようなプロウイルス量の推移を示したことは、本研究で同定したプロウイルス量を規定するSNPおよびBoLAクラスIIアレルの宿主因子としての精度の高さを示している。実際に、感染後に経時的に収集した血液サンプルからmRNAの回収を行い、RNA seqによる全ゲノム発現解析を実施したところ、ウイルス量を規定する新規宿主因子の同定にも成功した。さらに、感染リンパ球を用いて、種類のMMR遺伝子(MSH2, MSH3, MSH6, PMS2, PCNA, UNG, EXO1遺伝子)発現を測定できるリアルタイムPCR方を構築し、各々の変動と」プロウイルスの相関性を検証することが出来た。 上記のように本研究は予定通りに順調に進んでいると判断できる。 一方、プロウイルス量関連SNPマーカー保有牛由来CD5+B細胞の株化には、未だ成功しておらず、現在続行中である。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、プロウイルス量を規定する新規宿主因子のウイルス複製における役割の解析を集中的に以下のような手順で行う。 1)cDNAクローニングと株化細胞での強制発現による新規宿主因子の機能解析、2)新規宿主因子の強制発現によるウイルス感染性への影響の解析、および3)新規宿主因子のノックダウンによるウイルス感染性への影響の解析
上記の機能解析により最終的に絞り込まれた、ウイルス量を規定する新規宿主因子の検出技術の確立と応用する展開に進展させる。本研究で得られたSNPマーカーとウイルス量を規定する新規宿主因子の検出技術を構築することにより、有効なBLV対策の一助とすることができる。
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