研究課題
昆虫におけるストレス順応性誘導因子N-acetyltyrosine(NAT)に関する研究を推進している。アワヨトウ幼虫の体液中NATの誘導には、第9神経節由来活性因子の関与を予想している。今年度の研究によって、この活性因子の精製を試み、精製スキームを以下の様に完成した。カリヤコマユバチによって寄生されたアワヨトウ幼虫第9神経節の40%アセトニトリル抽出分画→Octadecyl HPLCカラム(Mightysil RP-18,GP250, KANTO)→Octadecyl HPLCカラム(Symphonia, JASCO) →Octadecyl HPLCカラム(Unison UK-C18, Imtakt)の3段階からなる逆相系HPLCカラムクロマトグラフィーとなる。既寄生アワヨトウ幼虫約3,000匹の神経節を出発材料に精製を行い、最終的に純粋な精製品を得た。LC-MS/MSによる質量分析と一連の1H-NMRと13C-NMR分析によって、3-hydroxykynurenineがその精製完了因子であることが判明した。ただ、現段階では、この分子が目指す活性因子であるかどうかは明らかになっていない。寄生を始め各種ストレスと体液中のNAT濃度の関係について分析を行った。まず、ストレスを経験していない対照区アワヨトウ幼虫体液中では(現在の紫外領域での分光光度計を用いた測定系によっては)ほとんど検出限界以下の濃度しか存在していないことを確認した。しかし、寄生蜂による寄生を受けたアワヨトウ幼虫では、寄生後11日目では顕著なNATの濃度上昇が確認できた。さらに、42度-1時間という高温ストレスによっても濃度上昇が認められた。また、この高温ストレスを1時間程度の間隔を置いて繰り返すことによってNAT濃度も上昇することも確認した。
2: おおむね順調に進展している
これまでの研究によって、アワヨトウ幼虫の体液中ストレス順応性誘導因子N-acetyltyrosine(NAT)の誘導に関与すると予想している第9神経節由来活性因子の精製を完了し、その構造解析によって3-hydroxykynurenineであることが判明した。しかし、現段階では、この分子が目指す活性因子であるかどうかは明らかになっていない。つまり、3-hydroxykynurenineが寄生というストレスによって第9神経節から体液中に分泌され、この刺激によって体液中NAT濃度が上昇するかどうかは現在検証中である。この3-hydroxykynureninによる刺激によってNATを分泌する器官の同定も含め、今後慎重に分析を進める予定である。各種ストレスと体液中のNAT濃度の関係は、NATのストレス順応性誘導因子としての生理機能の絶対的証明にとって極めて重要と言える。なぜなら、ストレスによるアワヨトウ幼虫体内で上昇無くして順応性誘導は考えにくいからである。今回、寄生蜂による寄生と高温ストレスを施した幼虫について分析を行った。ストレスを経験していない対照区アワヨトウ幼虫体液中ではほとんど検出限界以下であった体液中のNATが、寄生後11日目では顕著な濃度上昇していることを確認できた。さらに、42度-1時間という高温ストレスによってもNAT濃度上昇が認められ、また、この高温ストレスを1時間程度の間隔を置いて繰り返すことによって、さらに濃度上昇することも確認した。
以下の2種類の研究を並行して進める。1) 分泌・作用機構解析研究、 これまでの研究によって、アワヨトウ幼虫の神経節由来活性因子候補として3-hydroxykynurenineが同定された。ただ、現段階では、この分子が目指す活性因子であるかどうかが明らかになっていない。今年度は、この点を検証する為に以下の様な実験を遂行する。A) 3-hydroxykynurenineを注射したアワヨトウ幼虫体液中でNATの濃度上昇を確認する。B) 熱ストレスを与えたアワヨトウ幼虫から継時的に第9神経節抽出液を調製し、3-hydroxykynurenineの濃度上昇を確認する。C) アワヨトウ幼虫の各器官(血球や脂肪体など)の培養系に3-hydroxykynurenineを添加し、NATの濃度上昇を誘起し得るかどうかを確認する。以上の3項目において、期待通りの結果が得られなかった場合は、3-hydroxykynurenine以外の因子の精製を行う。2)NAT構造解析研究、 NAT生合成系のキーエンザイムをN-acetyltransferaseと予想し、キイロショウジョウバエの当該酵素候補遺伝子のRNAiによる発現抑制系統を作出し、そのトランスジェニック体のストレス順応性能について解析した。その結果、RNAiトランスジェニック体とコントロール系統に有意な差は検出できなかった。キイロショウジョウバエでは3種類のN-acetyltransferase遺伝子が同定されているが、昨年度、解析を行ったのはその1種であった。その為、今年度は、残りの2種について同様の解析を行う。さらに、有機合成によってNATの修飾体を調製し、ストレス耐性誘導能についてアワヨトウ幼虫を用いて分析を進める。目標としては、NAT以上の高ストレス耐性誘導能を示すNAT修飾体を発見することである。
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Plos One
巻: 11 ページ: 7
doi.org/10.1371/journal.pone.0160210