研究課題/領域番号 |
16H02606
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
浦野 泰照 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 教授 (20292956)
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研究分担者 |
神谷 真子 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 講師 (90596462)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | activatable増感プローブ / 光線力学療法 / 一細胞分解能 / がん / lacZ / 細胞殺傷 / ケミカルバイオロジー |
研究実績の概要 |
本研究課題は、がん細胞でのみ光増感能が回復し、一細胞レベルの空間分解能での光線力学療法を実現するactivatable型光増感剤の開発とその機能検証を大きな目的とするものである。本年度はまず、本課題の基礎となるGGT-activatable型光増感プローブによるがん部位選択的な光線力学治療に関する検討を、GGT高発現がん細胞を移植したCAMモデル系で詳細に行い、これを投稿論文として公表した。次に初年度に開発することに成功した、分子内spiro環化に基づく光増感能の制御とquinone methide中間体生成による生成した光増感物質の細胞内retention機能を併せ持つSPiDER-killer-βGal分子に関して、既に培養細胞レベルでは一細胞分解能でのlacZ(+)細胞選択的な光殺傷が可能であることが明らかとなっていたが、本年度はこのin vivo適用を行い、個体内での一細胞レベルでの光殺傷が可能かどうか検討した。具体的には組織レベルの検討として、en-lacZショウジョウバエwing discへの光照射をによる細胞死誘導を検討した結果、明瞭な境界線を持ってlacZ発現領域選択的な細胞死誘導が確認された。さらに、in vivoにおいても細胞死誘導が可能か検討するため、ショウジョウバエ蛹モザイク解析モデルを用いた検討を行った。その結果、細胞死誘導後にDEVDase活性検出蛍光タンパク質であるVC3Aiの蛍光上昇がみられ、引き続きlacZ発現細胞選択的な細胞の分断化と体腔への脱落がみられるとともに、細胞死誘導したpupal notumの免疫染色から分断化した細胞でのみDcp-1活性が検出され、細胞死がlacZ発現細胞選択的に一細胞レベルで生じたことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度に開発した分子内スピロ環化とquinone methide化学を原理とする、β-ガラクトシダーゼをターゲット酵素とする一細胞分解能activatable型光増感プローブ(SPiDER-killer-βGal)は、本年度の研究から培養細胞レベルだけでなくin vivoにおいてもその機能を十分に発揮し、一細胞レベルでの選択的な細胞死を誘導可能であることが、様々な遺伝子改変ショウジョウバエ蛹の系で確認された。このような一細胞レベルでの細胞殺傷を可能とする有機小分子型activatable光増感プローブの開発は世界初の成果であり、さらに小分子プローブの動態制御が困難なin vivoでもその機能を十分に発揮することを実証できたことは、当初想定以上の成果であり、lacZレポーター遺伝子を活用した基礎生物学領域研究に大きな波及効果を持つ成果である。本研究課題は今後、がんの光線力学療法としてのactivatable光増感プローブの機能に集中して研究を行っていく予定であるが、以上の考察から本年度までの成果でも研究は計画以上に順調に成果を挙げていると結論づけられる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、がん細胞でのみ光増感能が回復し、一細胞レベルの空間分解能での光線力学療法を実現するactivatable型光増感剤の開発を、申請者の確立した分子内spiro環化に基づく分子設計法を駆使して行う。本年度まで研究で、それ自身は分子内spiro環化によって光増感能を持たないが、これがβ-ガラクトシダーゼとの反応によって光増感能が回復し、かつ酵素反応によって求電子性中間体を生成する部位が細胞内タンパク質と共有結合して細胞内にretentionされる機能を持つactivatable&細胞内retention型光増感プローブ(SPiDER-killer-βGal)の開発と、この培養生細胞系、lacZ発現ショウジョウバエを用いたin vivo系での機能検証を完了した。今後は本系を新鮮臨床検体へと適用し、実際の臨床用途でも充分に高選択的な光線力学療法が達成可能かどうかを精査することに注力する。具体的には、がん部位のβ-ガラクトシダーゼ活性が亢進している新鮮臨床検体にプローブを適用し、短時間のインキュベーション後光照射を行って、がん部位と正常部位に対する光依存的傷害の大きさを形態及び病理染色によって詳細に検討する。 さらにβ-ガラクトシダーゼ以外のバイオマーカー酵素に対するactivatable&細胞内retention型プローブの開発を目指し、GGT酵素活性、シアリダーゼ酵素活性をターゲットとするプローブを開発する。血中や細胞外環境でのプローブ母核の安定性と、酵素反応による求電子性官能基の生成速度の検証と最適化を経て、一細胞分解能での光線力学的診断(PDD)と治療(PDT)を可能とするプローブの開発を目指す。プローブの開発が完了し次第、PDDに関しては生細胞系と新鮮臨床検体で、PDTに関しては培養生細胞とCAMモデルでその機能検証を行い、最適化されたプローブの開発を完了する。
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