研究課題/領域番号 |
16H02613
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
村上 誠 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 教授 (60276607)
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研究分担者 |
山本 圭 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(生物資源産業学域), 准教授 (30304504)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 酵素 / 脂質 / 生体分子 / 細胞・組織 / 遺伝子 |
研究実績の概要 |
脂質は食品から摂取される重要な環境因子であると同時に、生体内で常に代謝を受け、生命応答を制御する環境応答因子でもある。本研究では、PLA2関連リパーゼ群の遺伝子改変マウスにリピドミクスを展開することで、各酵素により動員される脂質の役割を体系化し、脂質を基軸とした健康環境調節の統一的理解を目指す。当該年度は以下の結果を得た。 1. 皮膚バリアの恒常性と疾患に関わる新規脂質経路:(1)PLA2G3はPGF2aの産生を介して表皮バリアの恒常性に関わること、(2)PLA2G2Fはリゾリン脂質P-LPEの産生を介して乾癬やアトピー性皮膚炎を増悪し、角質のP-LPEは皮膚疾患の進行度と相関すること、(3) 乾癬やアトピー性皮膚炎に伴い発現誘導される新規PLA2のうち、PLA2G4Eが特殊なリン脂質であるNアシルPEの産生に関わることを発見した。 2. 皮膚脂質代謝を介した遠隔組織変容:上記1-(1)と関連して、皮膚バリア異常から2型免疫の亢進、アトピー性皮膚炎を経て喘息へと進展するアレルギーマーチについて、皮膚特異的PLA2G3欠損マウス及びPGF2a受容体欠損マウスを用いて解析中である。 3. 腸管脂質代謝を介した遠隔組織変容:腸管に限局発現しているPLA2G2Aの欠損マウスが遠隔の皮膚に表現型を発症すること、本表現型が腸内細菌叢の変化に起因することを見出した。 4. 生体膜リン脂質の新規環境整備機構:生体膜リン脂質を構成単位に細断し再利用するリン脂質再生経路について、PNPLA7欠損マウスの肝臓では膜リン脂質からのコリンの動員が激減するためメチル基フラックスが乱れ、メチオニン不足に起因する表現型を呈することが判明した。更に、本代謝経路においてPNPLA7の上流に位置するPNPLA8、下流に位置するGDE5の欠損マウスについても解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2年前に現所属機関に異動したが、これに伴う欠損マウスの凍結胚からの復元に時間を要している。本研究に必要なマウスは前年度中にほぼ復元したが、組織特異的欠損マウスは何度か交配を重ねる必要があるためまだ実験に使用できる段階に達しておらず、当初予定していた研究計画の一部については遅れが生じている。一方で、当初は予想していなかった新しい発見もあり、総合的に見て本研究は概ね順調に進んでいると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
1.皮膚バリアの恒常性と疾患に関わる新規脂質経路:前年度までの成果を元に、皮膚に固有に発現しているPLA2G4D、PLA2G4E、ABHD12Bの各欠損マウスの皮膚表現型の解析を継続する。ヒト皮膚疾患における各酵素の発現プロファイルを元に、PLA2G4DとPLA2G4Eについては表皮修復、乾癬、アトピー性皮膚炎、ABHD12Bについてはアトピー性皮膚炎と強皮症に着目する。各欠損マウスの皮膚リピドミクスならびにリコンビナント酵素を用いた酵素活性評価系を展開し、各酵素が関わる脂質代謝を同定する。さらに、分担研究者と協力し、PLA2G2Fにより動員されるP-LPEの作用機序の解明ならびに簡易検出法の開発を進める。 2.皮膚脂質代謝を介した遠隔組織変容:前年度までの解析を継続し、PLA2G3欠損マウスにおける皮膚バリア異常とそのアトピー皮膚炎や喘息への波及を精査することで、アレルギーマーチの新規発症機序の確立を目指す。また、2型免疫の亢進が肥満の慢性炎症に対して防御的に作用するという観点から、皮膚特異的PLA2G3欠損マウスにおける肥満改善の表現型解析を継続する。 3.腸管脂質代謝を介した遠隔組織変容: 前年度までに見出したPLA2G2A欠損マウスにおける腸内細菌叢の変化に基づき、本年度は糞便のメタボローム解析を展開し、表現型に関わる微生物由来代謝物を同定する。 4.生体膜リン脂質の新規環境整備機構:リゾホスホリパーゼPNPLA6, PNPLA7の組織特異的欠損マウスを用い、肝臓、脂肪組織、神経、網膜等における各酵素の役割を明らかにする。更に、リゾホスホリパーゼの下流酵素候補であるGDE5の欠損マウスが耐性致死となることを新たに見出しており、この分子機序を精査する。
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