研究課題/領域番号 |
16H02616
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
横井 毅 名古屋大学, 医学系研究科, 教授 (70135226)
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研究分担者 |
織田 進吾 名古屋大学, 医学系研究科, 特任助教 (10725534)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 薬物性肝障害 / 動物モデル / グルタチオン / ラモトリギン / エナラプリル / in vitro cell-based スクリーニング / 酸化ストレス |
研究実績の概要 |
本研究の目的は医薬品開発における撤退理由の約30%である薬物性肝障害について、実験動物in vivoモデルを作出し、発症メカニズムを解明すること、さらに、in vivoモデルから得られたバイオマーカー候補をin vitro cell-basedスクリーニングシステムの構築に役立てることである。初年度は、(1) ACE阻害薬であるエナラプリル(ELP)は、ヒトで稀に重篤な肝障害が報告されている。通常の肝臓の状態のマウスでは、ELP肝障害は作成できず、デキサメサゾンと肝グルタチオン量を減少させるBSOの併用投与によって初めて肝障害を発症させることができた。この発症メカニズムには、酸化ストレス因子が主に関与し、好中球の浸潤は増悪因子として働いていることを明らかにし論文として発表した。(2) 双極性障害治療薬ラモトリギンは、SJSや肝障害の発症が報告されている。反応性代謝物の介在が示唆されているため、肝グルタチオン含量を低下させた系で肝障害モデルマウスを作成できた。発症機序を詳しく検討した結果、Kupffer細胞の関与が示され、さらにERK/JNKシグナルを介し、HMGB1-TLR4シグナルの活性化が明確に示された。 (3) Phase III終了後に撤退したTAK-875について、肝障害の原因について、マウスモデルを作成して探索している。薬効及び構造が類似であり肝障害発症リクスが低いと考えられるAMG-837とTUG-770の開発中の化合物を対照群として、発症経時的にマイクロアレイ解析を行った。その結果、ERストレス、アポトーシスと肝脂肪蓄積が主たる要因であることが示された。特にER ストレスの関与について、4-PBAを用いてin vivoでその関与を定量的に示した。さらに、これらの結果をHepG2細胞を用いたin vitroの判定系に応用することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定どおり、信頼性が高いと思われるmiRNAarrayのデータを収集することができた。概要(1)のエナラプリルに起因する肝障害モデルについては、英文学術論文として発表することができた。概要(2)のラモトリギンについてはも、pathway解析を終了し、当初の予定通りの進捗であり、現在は英文論文を作成中である。概要(3)のTAK-875(ファシグリファム)については、enrichment解析を駆使して、pathwayを明確に示すことができた。さらに、in vitroでHepG2細胞を用いた系に応用することができた。さらに、実績として発表できる段階にはない研究については、以下の2課題について実施中である。(1) 肝類洞内皮細胞が主に抗がん薬に起因した障害を受けることで、類洞閉塞症候群(SOS)が発症することが知られているが、ラットを用いたSOSモデルを既報に従った方法で作成した。目的はSOS発症の初期または発症前に、血中のmicroRNA(miRNA)をバイオマーカーとして、その早期予測診断に使えることを目指して研究中である。(2) miRNAが臓器障害の発症にかなり先んじた変化として捉えることができる。中でも肝細胞特異的に存在するmiR-122は、肝障害を血中で予測できるバイオマーカーとしての有用性が期待されているが、現状では病型判断には不十分である。本研究では肝細胞障害、胆汁うっ滞および脂肪肝について、早期に病型判断可能な血中miRNAの評価を目的として研究を行っている。肝障害モデル動物から、経時的に血液を採取し、血漿からRNAを抽出後、次世代シーケンサーを用いて血漿中miRNAを網羅的に解析を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
(1) ラットを用いたSOSモデルを作成した。SOS発症の初期または発症前に、血中のmicroRNA(miRNA)をバイオマーカーとして、その早期予測診断に使えることを目指しており、時間依存的な発現変化を血中で捉えることを目的としている。SOSの発症予測バイオマーカーとしてのmiRNAについては、現在網羅的発現解析のデータを解析中である。かなり有望なmiRNAバイオマーカーを抽出できると予想している。(2)の肝細胞障害、胆汁うっ滞および脂肪肝の早期に病型判断可能なmiRNAの評価を目的とした。典型的なラットモデルにおいて、次世代シーケンサーを用いて血漿中miRNAを網羅的に解析した。ピーク時点や障害の程度が異なる病型間でのmiRNA発現を比較するために、時系列的miRNAプロファイルのクラスターパターンから肝障害の初期、中期、後期を定義し、各時点において増加または減少したmiRNAを、ベン図を用いて病型別、または網羅的に解析予定である。さらになる薬物性肝障害の研究課題として、糖尿病治療薬として市販後撤退したことで有名なトログリタゾンの肝障害モデルを、マウスを用いて作成し、典型的なidiosyncraticな起因薬による発症のメカニズムを解析する予定である。
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