研究課題/領域番号 |
16H02617
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
岡村 康司 大阪大学, 医学系研究科, 教授 (80201987)
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研究分担者 |
河合 喬文 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (70614915)
大河内 善史 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (90435818)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 脂質 / シグナル伝達 / 蛋白質 / 酵素 |
研究実績の概要 |
1.発現系細胞を用いたマウスVSPの分子特性の解析:マウスVSPの分子特性を明らかにする目的で、S1-S3がCi-VSPで、S4-酵素領域がm-VSPのキメラ体を作成し、cRNAをアフリカツメガエル卵母細胞に発現させ、PLC-delta-PHD-GFPおよびKirチャネルを用いた電位依存性酵素活性の定量を行った。膜電位依存的酵素活性が確認されたことから、電位センサーの膜電位感知に重要なS4とリンカー部、酵素領域をカバーするほとんどの分子構造が、従来知られてきたVSPの膜電位依存的酵素活性特性をもつことが明らかになった。 2.野生型マウスとノックアウトマウスの精子での細胞内Ca、pHの蛍光測定:蛍光指示薬を用いた細胞内Ca濃度計測により、精子尾部においてノックアウトマウス由来精子のほうが細胞内Ca2+濃度の上昇が顕著であることが明らかになった。pH感受性蛍光指示薬であるBCECFを用いた計測では細胞内pHには差が見られなかった。 3.精子のパッチクランプ法での計測によるCatSperおよびSlo3電流の計測:パッチクランプ法によりCatSper電流を比較したところ、正常マウスとノックアウトマウスでは電流量に大きな差が見られなかった。Slo3電流についても計測したところ集団内での電流量のばらつきが大きく有意差が明確でなかった。両方のイオンチャネルについて今後更なる条件の検討を行う必要がある。 4.CatSperの発現系での電流解析:ホヤ由来CatSper3が電位センサー領域のみでCa2+電流を示すことが判明し、マウス由来Catsper3について同様な解析を行ったところCa2+電流活性をもつことが明らかになった。 5.精子からの膜電位計測を目指した手法の構築:遺伝子コード可能な膜電位プローブとしてmerm2を発現系細胞以外の細胞での膜電位計測が可能かを検討するため、血球系細胞のRaw細胞にmerm2を発現する安定株を構築した。高カリウム溶液刺激によりFRETシグナルの変化を認めることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ノックアウトマウスと野生型マウスの精子間で細胞内Ca2+濃度上昇の仕方に大きな相違があり、一方細胞内pHには大きな相違が見られないことから、具体的なVSPの下流にある分子機構の対象の絞り込みが可能となった。また、これまで発現系細胞系でのm-VSPの分子特性の解析が大きく遅れてきたが、S1-S3までをCi-VSPの構造を用いることによって、重要な分子特性がm-VSPにおいて保存されていることが明らかになったことの意味も大きい。これにより膜電位依存的にPIP2を減少させる役割が、精子においての役割であるという研究の主軸が確認されたことになる。
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今後の研究の推進方策 |
ノックアウトマウスで精子の細胞内Ca2+の違いを生じる仕組みとして、イオンチャネルとCa2+ポンプ(PMCA4)に着目して、実験をデザインする。特にCatSper電流に大きな差が見られていないことから、CatSperチャネルの分布の違いやCa2+ fluxのドライビングフォースを決めるカリウムチャネルの活性については今後詳しい解析を行う予定である。また佐々木雄彦博士と連携し、細胞内のイノシトールリン脂質各アイソフォームの量の違いを質量分析法を用いて解析する予定である。
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