エボラウイルスは、ヒトまたはサルに急性で致死率の高い感染症(エボラ出血熱)をひき起こす病原体である。2014年の西アフリカでの大流行と欧州や米国を含めた他国への拡散によって、予防・治療法開発が急務となった。中和抗体による受動免疫および既存の化合物が緊急的に用いられたが、実用化には大きな課題が残されている。(1)これまでに作製された治療用抗体は全てZaireウイルス特異的であり他の種のエボラウイルスには効果が無い。(2)投与された化合物の有効性がサルモデルで確認されていない事に加え、それらは細胞内で作用するウイルスポリメラーゼ阻害薬であるため、大量投与に伴う副作用が大きい。そこで、本研究では全てのエボラウイルス種に有効な抗体療法開発に繋がるマウスモノクローナル抗体の作出を試みると共にエボラウイルスの細胞侵入を阻害する新規化合物を探索し、エボラ出血熱治療薬の実用化を目指す。 エボラウイルスの表面糖蛋白質GPは、エンドソーム内で宿主プロテアーゼにより部分的に分解される事によってレセプター結合領域が露出する。その後GPは、エンドソーム内に発現する膜融合レセプターであるNiemann-Pick C1 (NPC1) 蛋白質と結合し、それによってウイルスエンベロープと細胞膜の融合が引き起こされる。したがって、レセプター結合領域付近の構造はウイルス種間で保存性が高いと推測され、その領域のエピトープに対する抗体は強い中和活性を示すだけでなく交差反応性も高い事が期待される。そこで、GPを試験管内で宿主プロテアーゼと反応させ、レセプター結合領域を露出させた抗原蛋白質を作出する方法を検討し、マウスを用いて免疫原としてのポテンシャルを解析した。また、これまでの研究で得られた、全てのエボラウイルスの感染性を低下させる作用を持つ化合物の感染阻害メカニズムの解析を継続し、GP分子の側面に結合し膜融合を阻害する事が推測された。
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