胸腺は、免疫システムの司令塔であるT細胞を分化させるとともに、産生するT細胞が自己に有用かつ寛容になるように選択する器官である。私たちはこれまでに、胸腺皮質上皮細胞に特異的に発現される胸腺プロテアソームとその構成鎖β5tを同定するとともに、胸腺プロテアソーム依存性「正の選択」は、CD8陽性T細胞の有用レパトア選別のみならず、選別するT細胞の機能を至適化することを見出してきた。そこで本研究では、胸腺プロテアソーム依存性または不在下に選択されたT細胞を対象に、(1)感染・移植・がんに対する免疫応答と免疫記憶の動態相違を比較解析することで、正の選択による機能的至適化の意義を明らかにするとともに、(2)シグナル伝達分子の量と修飾状態を包括的に比較解析することで、正の選択による機能至適化の分子実体を明らかにすることを目的とした。 この目的に沿って最終年度の令和元年度には、まず、上皮細胞系特異的サイクリンD1強制発現マウスを利用することで、胸腺プロテアソームの存在が胸腺皮質上皮細胞のトランスクリプトームとプロテオームにどのような統合的影響を与えるか解析し、胸腺プロテアソームは、胸腺皮質上皮細胞内でのプロテアソーム総量を高い特異性にて制御する一方で、ストレス応答やオートファジーを含む細胞内シグナルプロセスに包括的に関与していないことを明らかにし、胸腺プロテアソームがMHC会合ペプチドの産生を介してCD8陽性T細胞の「正の選択」を担っている可能性を報告した。また、胸腺プロテアソーム依存性または不在下に選択されたT細胞を対象に、プロテオーム解析やメタボローム解析を行うことで、シグナル伝達分子の量と修飾状態の解析を推進した。
|