研究課題/領域番号 |
16H02631
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
小安 重夫 国立研究開発法人理化学研究所, 統合生命医科学研究センター, グループディレクター (90153684)
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研究分担者 |
茂呂 和世 国立研究開発法人理化学研究所, 統合生命医科学研究センター, チームリーダー (90468489)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 自然リンパ球 / 肥満 / 脂肪組織炎症 |
研究実績の概要 |
昨年までに、高脂肪食負荷を与えた際の体重増加に、小腸管粘膜固有層由来のNH細胞(2型自然リンパ球:SI-ILC2)が重要であり、腸間膜由来のILC2(WAT -ILC2)と異なる性質を持つことを明らかにしてきた。SI-ILC2とWAT-ILC2に機能的差異を検討するために、それぞれの細胞を用いてRNASeq解析を行った。WAT-ILC2に比較してSI-ILC2においてIL-2の発現が10倍以上高かった。IL-2Rβ-/-Rag-2-/-マウスに高脂肪食負荷を与えたところ、肥満に抵抗性である事が分かった。さらに、細胞内サイトカイン染色によってSI-ILC2や3型自然リンパ球(ILC3)がIL-2を分泌することも明らかになった。これらの結果はIL-2がILC2やILC3を維持することが肥満の誘導に機能することを示す。腸管組織における遺伝子発現も検討したところ、リポタンパク質の分解酵素を抑制するAngptl4の発現がSI-ILC2によって抑制されることが明らかになった。また、タイトジャンクションを構成するTjp1の発現もSI-ILC2によって抑制された。Tjp1の発現低下は腸内細菌由来のリポ多糖による炎症を誘導することが知られており、SI-ILC2はAngptl4やTjp1の発現を抑制することで肥満脳誘導に関与する可能性が示唆された。 さらに、in vivoにおける前脂肪細胞の活性化や増殖を検討した。野生型マウスやRag2-/-マウスに高脂肪食負荷を与えると早期に前脂肪細胞の活性化と増殖が誘導されるが、全てのリンパ球を欠損するγc-/-Rag2-/-マウスにおいては前脂肪細胞の活性化や増殖が見られなかった。この事実もILC2が脂肪細胞の活性化や増殖を通じて肥満の誘導に機能するという我々の仮説を支持する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ILC2にのみ発現する遺伝子を検索した結果、残念ながら、得られた候補遺伝子は神経系の一部に発現が見られるなど、真の意味でILC2特異的に発現する遺伝子は同定できなかった。そこで、血球系の細胞の中でILC2特異的に発現する複数の遺伝子に着目し、さらに定量PCR法によって特異性を確認し、2つの遺伝子(Inmt、Sparcl1)を同定した。これらの遺伝子にCreとGFPを挿入したマウスをようやく作成することができたが、予想に反してこれらのマウスにおいてILC2でのGFPの発現は観察されず、c-Kitを発現する非血球系の細胞の一部においてGFPの発現が観察された。これは、我々がILC2に発現する遺伝子を検索するにあたり、c-Kitを用いて細胞を調整した際に混雑した非血球系の細胞由来の遺伝子を検出したためと考えられた。これらの経緯からこの方法によるILC2を特異的に欠損するマウスの作成は断念した。
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今後の研究の推進方策 |
ILC2を特異的に欠損するマウスの作成はかなり困難であると考えざるを得ない。次善の策としてRORα<flox/flox>Vav1-Creマウスを作成した。RORαはILC2の分化に必須であり、この遺伝子を血球系でのみ欠損したマウスはILC2を欠損する。ただし、RORαがTh17の分化にも機能することから他の免疫反応への影響が皆無ではないが、このマウスを用いた解析が次善の策と判断している。 ILC2と脂肪細胞の相互作用に関してはILC2由来の液性因子の同定を試みると共に、in vivo におけるILC2による脂肪細胞分化の調節機構を検討するために、γc-/-Rag2-/-マウスにおける脂肪細胞分化過程をさらに精査する予定である。
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