研究課題/領域番号 |
16H02636
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
大戸 茂弘 九州大学, 薬学研究院, 教授 (00223884)
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研究分担者 |
松永 直哉 (門田直哉) 九州大学, 薬学研究院, 准教授 (10432915)
小柳 悟 九州大学, 薬学研究院, 教授 (60330932)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 薬学 / 時間生物 / ケミカルバイオロジー / 炎症 / 分子時計 |
研究実績の概要 |
マウス乳癌細胞株4T1細胞移植マウスから腫瘍を採取し、ALDEFLUOR Assay法を用いて高いALDH活性を示す細胞数の割合を測定した結果、高いALDH活性を示す細胞数の割合は暗期前半にピークを示す有意な概日リズムを示した。そこでALDH活性が高値を示す細胞を対象にマイクロアレイ解析を行った結果、Aldh3a1の発現量が高値を示していることが明らかになった。また、Aldh3a1のmRNAおよびそのタンパク質の発現リズムは、ALDH活性の概日リズムとほぼ同位相を示していた。以上の結果より、マウスに移植した4T1腫瘍中における高いALDH活性を示す細胞数の概日リズムは、転写レベルで制御されていることが示唆された。 マウスAldh3a1遺伝子の5’上流を対象に転写制御機構を解析した結果、Wnt / β-CATENIN経路によって、Aldh3a1遺伝子の転写活性が制御されていることを明らかにした。また、腫瘍中では、低いALDH活性を示す細胞から分泌されるWnt10Aの概日リズムが、高いALDH活性を示す細胞のALDH3A1発現の概日リズムに影響を及ぼすことを明らかにした。以上の結果より、低いALDH活性を示す細胞からのWnt10Aによる周期的な刺激によって腫瘍中での高いALDH活性を示す細胞数の概日リズムが引き起こされていることが示唆された。 次に、腫瘍中の高いALDH活性を示す細胞数の概日リズムを指標に、腫瘍増殖に及ぼすALDH活性阻害剤である4-diethylaminobenzaldehyde (DEAB) の投薬時刻の影響を検討した。その結果、高いALDH活性を示す細胞数の割合が増大する暗期前半に薬物を投与した群において、腫瘍増殖抑制効果が増強されることが明らかになった。以上の結果より、高いALDH活性を示す細胞数が増加する時刻にALDH活性阻害剤を投与することで腫瘍増殖が抑制されることが示唆され、ALDH活性の概日リズムはがん細胞の増殖に影響を及ぼしていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マウスに移植した4T1腫瘍中で高いALDH活性を示す細胞数に概日リズムが存在することを明らかにした。細胞連関の視点から、低いALDH活性を示す細胞からのWnt10Aによる周期的な刺激によって腫瘍中での高いALDH活性を示す細胞数の概日リズムが引き起こされていることが示唆された。これらの概日リズムを指標にしたALDH活性阻害剤の投薬時刻が腫瘍増殖能および転移性能に影響を及ぼすことが示唆された。本研究で得られた知見は、ALDH活性の概日リズムを指標とするがん幹細胞を標的にした難治性乳がんの新規治療法開発に繋がる可能性が考えられる。 以上のことから、おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
昨年実施した課題2に加えて、課題3について検討する。すなわち、昨年度までに、炎症発症時の標的分子の発現リズム変容時期を同定し、炎症に及ぼす標的分子変容の影響を明らかにしている。また炎症時の細胞群の静的・動的細胞動態リズム変化を解析し、細胞連関に関わる因子を同定している。そこで、本年度は、炎症臓器および非炎症臓器の炎症リズムの臓器連関の伝播機構を解明する。 これまでに、慢性腎臓病(CKD)モデル動物である5/6腎臓摘出(5/6 nephrectomy; 5/6Nx) マウスの肝臓において、時計遺伝子が変容し、代謝酵素など肝機能が障害され、腎臓の線維化が促進されることを明らかにしている。そこで、5/6Nxマウスの腎臓における時計遺伝子の変容のメカニズムを臓器連関の視点から解析する。
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