研究課題
COPD、ARDS、特発性間質性肺炎、難治性気管支喘息、新興呼吸器感染症(新型インフルエンザ等)などは、炎症関連機序を主体とする病態であり、その難治性・致死性や高い発症頻度から、社会的にも極めて重大な疾患群である。例えば、喫緊の対策課題であるインフルエンザの主要死因は、難治性呼吸不全・ARDSである。これらの炎症性肺疾患の病態機序・治療標的は未だに不明であり、新治療法の開発が急務とされている。また、本邦での肺癌患者数は年間10万人を超え、7万人以上が死亡している。肺癌細胞の悪性化の過程において、上皮細胞が間葉系細胞の形質を獲得する上皮間葉転換(EMT)が重要であり、癌細胞と癌間質との相互作用、特にCAF(cancer-associated fibroblast)の働きにより浸潤・転移といった癌進展が促進される。肺の器官形成(branching morphogenesis・肺胞形成)、肺リモデリング(気腫化・線維化)、癌進展(EMT・癌-間質相互作用)など一見して異なる生命現象は、細胞レベルでは上皮間葉相互作用という共通したメカニズムが介在しており、分子レベルで類似した制御機構が関与する。転写コアクチベーターTAZ/YAPは、Hippo経路の実行因子として機能し、転写因子TEADsと結合して転写制御に関わる。この数年でTAZ/YAPの多彩な機能(幹細胞の多能性維持や分化制御・器官形成・臓器サイズ調節・腫瘍形成)が解明されつつある。TGF-βはSmad3を介した細胞内シグナル伝達を行う。幹細胞の多能性維持、細胞の増殖・分化を制御し、様々な臓器の器官形成に関わる。またEMTを誘導する最も強力な因子であり癌細胞の浸潤・転移能を亢進させる。さらにTGF-βは細胞外基質やプロテアーゼの産生を通じて肺リモデリングや癌間質の形成に関与する。今年度は、上記のテーマを中心に研究を進めた。
2: おおむね順調に進展している
発生工学、細胞培養技術、次世代シーケンサー解析などの進歩により、器官形成、ストレス応答、細胞の増殖・分化と組織の再生や、これらの制御系の破綻がもたらす疾患病態が解明されつつある。本研究ではこれらの最先端技術を活用し、呼吸器官の形態形成や恒常性維持機構を解明し、ARDS・肺線維症・肺癌などの呼吸器疾患の病態理解を深め、治療法開発への糸口を探ることを目的としており、成果が得られつつある。
難治性呼吸器系疾患に対する治療薬剤の開発は目下、困難を極めている。最新アプローチを駆使した本プロジェクトは、文字通り「ベンチからベッドへ」という橋渡し的役割を果たすものであり、その成果は、薬剤開発のプロセスを短縮し、実用化に大きく寄与することが予想される。また、難治性呼吸器系疾患に対する治療薬の開発は、社会医学的にも医療福祉・医療経済的にも莫大な貢献をなすことが予想される。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 6件、 謝辞記載あり 6件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
Sci Rep
巻: 7 ページ: -
doi: 10.1038/srep42595
J Vis Exp
巻: 112 ページ: -
doi: 10.3791/53974
Cancer Sci
巻: 107 ページ: 1755-1766
doi: 10.1111/cas.13078.
巻: 6 ページ: -
doi: 10.1038/srep33666
Int J Chron Obstruct Pulmon Dis
巻: 11 ページ: 1403-1411
doi: 10.2147/COPD.S107985
巻: 11 ページ: 2335-2340
DOI: 10.2147/COPD.S112142