研究課題
主要なT細胞リンパ腫である血管免疫芽球性T細胞リンパ腫(AITL)について、(1)血清診断法確立、(2)新規ゲノム解析、(3)マウスモデル作製、(4)シグナル異常解明と治療法探索、を目的として研究を行った。それぞれについて以下の成果が得られた。(1) AITL腫瘍組織由来DNAでは、高頻度(60-70%)に、シグナル分子であるRHOAをコードする遺伝子のG17V変異が同定される。G17V RHOA変異陽性患者において、治療前の血清が入手可能であった全例において、血清由来DNAでもG17V RHOA変異が同定された。本変異はAITL特異的であることから、血清検査によりAITLの診断ができる可能性が示された。(2) AITL患者の腫瘍由来RNAの網羅的シークエンスにより、多機能シグナル分子VAV1をコードする遺伝子が融合遺伝子を形成することを見出した。VAV1遺伝子に注目しAITL患者腫瘍由来DNAで変異解析を行ったところ、一部の患者検体でVAV1変異が同定された。VAV1変異/融合はRHOA変異陰性例のみで同定され相互排他的であった。(3) AITLでは、TET2遺伝子にも高頻度(>80%)で機能障害型変異が同定され、G17V RHOA変異は常にTET2変異と共存している。このため、TET2遺伝子を欠失し、G17V RHOAを発現するマウスを作製した。このマウスは、TET2遺伝子欠失操作後40週までに、>80%の個体で患者AITLと組織学的に類似する腫瘍を発症した。AITLモデルマウスが構築された。(4) G17V RHOAがVAV1に特異的に結合し、VAV1の機能を増強することを見出した。このことは、G17V RHOA変異とVAV1変異/融合が相互排他的であることから、両者が類似の細胞内シグナル異常の原因になっていると推定されることとも一致する結果であった。G17V RHOA-VAV1経路が、治療標的になる可能性が示された。
2: おおむね順調に進展している
(1)AITLの血清診断については、これまでは次世代シークエンサーを用いてG17V RHOA変異解析を行ってきたが、未だ検査室で診断できるようにはなっていない。今後、検査会社と共同で簡便な検出法を開発し、受注できる体制構築が必要である。(2)RHOA変異とVAV1変異/融合はこれまでのところ相互排他的に認められているが、より多数の検体について解析を行い、確認する必要がある。また、RHOA変異もVAV1変異/融合も陰性のケースにおけるゲノム解析を進める必要がある。(3)AITLのマウスモデルが構築できたと考えられるが、発症までの潜時が長いため、解析に困難を伴う。このため、発生した腫瘍細胞を免疫不全マウスに移植してレシピエントマウスでの腫瘍解析ができるようにする必要がある。これにより、多数のマウスで腫瘍の状態を同期させた状態で治療実験を行うこともできるようになる。(4)G17V RHOA変異による新規シグナルの同定を計画していたところ、G17V RHOAとVAV1との特異的結合について明らかにすることができた。すでにVAV1リン酸化に注目し、チロシンキナーゼ阻害剤によるAITL治療の可能性について検討を開始している。。(5)AITLの腫瘍組織を構成する細胞系列毎のゲノム解析を行い、B細胞の遺伝子変異を同定して論文発表を行った(Blood Cancer J. 2017;7(1):e516 )。しかし、「AITL組織由来B細胞リンパ腫発症機構解明の手がかりを得る」という計画は達成されていない。
(1)AITLの血清診断について、PCRを用いて血清DNA中のG17V RHOA変異を検出できる系を構築し、検査室で受注できるよう体制構築を行う。(2)RHOA変異とVAV1変異/融合をより多数の検体について解析を行って、相互排他性を確認する。また、RHOA変異もVAV1変異/融合も陰性のケースにおけるゲノム解析を進める。(3)AITLのマウスモデルで発生した腫瘍由来細胞を免疫不全マウスに移植してレシピエントマウスでの腫瘍解析を行う系を構築する。これにより、多数のマウスで治療実験を行う。(4)AITLにおいて、チロシンキナーゼ阻害剤を用いてVAV1のリン酸化を抑制することで、AITL治療が可能であるかについて、細胞あるいは(3)で構築するマウスモデルを用いて明らかにする。(5)(1)で構築する生検前の血清G17V RHOA変異診断で陽性の結果が得られたケースについて、生検時にB細胞その他の細胞を分取して保存し、リンパ腫のパネル標的シークエンスを行うことで、AITL組織由来B細胞リンパ腫発症機構解明の手がかりを得る。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 2件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (13件) (うち国際学会 8件、 招待講演 5件) 備考 (1件) 産業財産権 (1件)
Blood Cancer Journal
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