研究課題
申請者は去年度、本研究課題を通じて生体内におけるアミノ酸濃度バランスが造血幹細胞を制御することを明らかにした(Yata et al., Science 2016)。特に、バリン濃度が非常に低い環境下においてはin vitro, in vivo共に造血幹細胞の自己複製ならび増殖が著しく低下することを明らかにした。また本研究を行う中で、造血幹細胞を培養する培養液中の成分を見直ししなければならないという考えに至り、新たな造血幹細胞の培地成分についての報告をした(Ieyasu et al., Stem cell Reports)。その他にも本研究課題を基に造血幹細胞における研究報告を複数した。
2: おおむね順調に進展している
申請者らは既に培養によって造血幹細胞の維持に特定のアミノ酸が必須であるというデータを得た。このアミノ酸のin vivoにおける造血能への影響を調べるために特定のアミノ酸を欠く合成飼料を作成し、この飼料ならびに全てのアミノ酸を入れた飼料をそれぞれ マウスに与えたところ、造血幹細胞の数が激減することを見出した。また、両グループでの造血系の変化を経時的に解析した。造血能に異常が見られたマウスに関しては骨髄細胞をFACSにて、また骨髄、脾臓、胸腺についてはその切片を免疫蛍光染色等により詳細に解析した。その結果様々な免疫系細胞や造血系細胞で異常が認められた。Valine(-),Valine(+)の両方の培養液で種々の期間培養した造血幹細胞からRNAを抽出し、遺伝子発現解析を行い、Valine依存性、非依存性の発現を示す遺伝子群を同定する。骨髄中でのValine産生細胞を同定することを目的とし、osteoblast, MSC, 血管内皮細胞、神経細胞等を骨髄中より回収し、培養して培養液中に分泌されるアミノ酸を定量する。
今後の方針としては以下の3つ項目を精力的に行う。1)造血幹細胞および骨髄ニッチ側のValine依存性の解明薬剤や遺伝子ノックアウト(GCN KOマウス)などによってシグナル伝達機構がブロックされている状況でのValine依存性をしらべる。薬剤としてはrapamycin, eIF2B阻害薬, アミノ酸トランスポーターであるLAT1阻害薬など、ノックアウトマウスとしてはGCN2 KOマウス, LAT1 KOマウスを考えている。2)造血幹細胞以外の組織幹細胞の維持・増殖に対するValineならびに他のアミノ酸の影響。前年度に造血幹細胞以外の組織幹細胞にも特定のアミノ酸に対する依存性が確認された場合はその組織幹細胞とその組織の分化過程に対する影響を詳細に解析する。3)Valine摂取制限を利用した造血幹細胞移植法の確立免疫不全患者に対するモデルに引き続き、やはり小児科領域で造血幹細胞移植を必要とする代表的な疾患であるFanconi貧血症モデルマウスを入手し、このマウスを対象としてValine摂取制限による造血幹細胞移植を試み、この手法が一般的に利用できるものかどうかを検証する。前年度までに得られた造血幹細胞や骨髄ニッチ細胞のアミノ酸依存性に関するデータを基に、 再生不良性貧血、MDSなど造血不全が根底にある疾患モデルマウスに対してアミノ酸の投与を行い、治療的な効果の有無を検索する。また、Valine摂取制限を施した免疫不全マウスがヒト造血幹細胞の移植にも使えるかどうかを確認する。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (10件) (うち国際共著 10件、 査読あり 10件、 オープンアクセス 4件、 謝辞記載あり 7件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 6件、 招待講演 6件) 産業財産権 (1件)
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