研究課題/領域番号 |
16H02670
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
田中 真二 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 教授 (30253420)
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研究分担者 |
森 正樹 大阪大学, 医学系研究科, 教授 (70190999)
島田 周 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 助教 (20609705)
秋山 好光 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 講師 (80262187)
深町 博史 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 講師 (70134450)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 癌 / 幹細胞 / クロマチン動的変動 / クロマチン再構築 / ゲノム編集技術 / DNA損傷 / 腫瘍変異負荷 / トランスレーショナルリサーチ |
研究実績の概要 |
本研究は、幹細胞可視化システムによる難治性癌の不均一性分子基盤解析と、その臨床応用を目指した先進的治療開発 という二つの視点を特徴とする。 まず幹細胞可視化システムを用いた解析によって、癌幹細胞特異的な遺伝子発現がクロマチン動的変動の不均一性によって制御されていることを証明し、癌幹細胞の治療抵抗性可視化解析に応用した(Ito, Tanaka, et al. PLosOne 2016)。肝癌に対する化学療法はソラフェニブやレゴラフェニブなど抗血管新生療法が主体であるが、初期には治療が奏功しても 腫瘍内不均一性から次第に治療抵抗性を獲得し、却って予後不良となることが多く、その対策は喫緊の臨床課題となっている。本研究では、抗血管新生剤に感受性が高いヒト肝癌細胞株をマウスに移植して血管新生阻害剤を投与し、残存した腫瘍片を次のマウスに継代移植して再び阻害剤投与を行うプロセスを12回繰り返し、生体内で治療抵抗性株を樹立した。その結果、DNA脱メチル化およびヒストンH3活性型修飾を伴うクロマチン動的変動によって幹細胞性を獲得し、生体内治療抵抗性となることを見出し、肝癌臨床検体の検証によってソラフェニブ抵抗性の新規バイオマーカーとなることを明らかにした(Ohata, Tanaka, et al. Mol Cancer Ther 2017)。 さらにクロマチン動的変動の意義をCrisp/Cas9ゲノム編集法によって解析した。クロマチン再構築複合体サブユニットARID2が欠損したヒト肝癌細胞をゲノム編集にて作製した結果、DNA修復機構(ヌクレオチド除去修復)が破綻し高い造腫瘍性を獲得すること、臨床検体では高頻度腫瘍変異負荷(hypermutator phenotype)を呈することを解明した(Oba, Tanaka, et al. J Hepatol 2017)。現在レンチウイルスベクターを用いた高効率ゲノム編集技術を新たに開発し、肝・膵腫瘍の幹細胞性制御遺伝子のゲノム編集解析へと研究展開を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では幹細胞可視化システムを用いて、2つの重要な新規成果および技術開発が得られている。 成果の1つは、可視化癌幹細胞と非癌幹細胞をそれぞれ抽出してChIP解析を行い、癌幹細胞特異的遺伝子がクロマチン動的変動の不均一性によって発現制御されることを明らかにした点である(Ito, Tanaka, et al. PLosOne 2016)。クロマチン動的変動は単に幹細胞性の制御のみならず、治療抵抗性を惹起することを見出しており、臨床的に有用な治療バイオマーカーを同定し、治療抵抗性克服の臨床開発を展開する実践的成果が得られた(Ohata, Tanaka, et al. Mol Cancer Ther 2017)。 もう1つの成果は、CRISPR/Cas9ゲノム編集を用いてクロマチン再構築複合体を解析し、ARID2変異によってヒト肝癌細胞ではDNA修復異常を惹起すること、臨床例では腫瘍変異負荷が有意に高いhypermutationを呈することを明らかにした点である(Oba, Tanaka, et al. J Hepatol 2017)。幹細胞のhypermutationによる発癌機序が報告され(Jager et al. Cell 2013)、腫瘍変異負荷は免疫チェックポイント阻害剤の有効性と相関することが注目されている(Le et al. NEJM 2015, Riaz et al. Cell 2017)。ごく最近、腎癌とメラノーマにおいてARID2および同複合体因子の不活化が、免疫チェックポイント阻害効果と有意に相関することが臨床・基礎両面から報告され(Miao et al. Science 2018, Pan et al. Science 2018)、宿主免疫におけるARID2ファミリーの重要性が強く指摘された。本研究によりDNA修復異常、腫瘍変異負荷を標的としたARID2変異特異的な治療開発を推進する画期的成果が得られている。 さらに上記成果に基づいた技術開発として、レンチウイルスベクターを用いた高効率ゲノム編集法を作成しており(論文投稿中)、難治性癌の不均一性を解明する新たな研究展開が始まっている点も計画以上の進展が認められる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で得られた新規成果および技術開発によって、新たな研究展開を推進している。 現在、高効率ゲノム編集技術を用いてクロマチン動的変動による癌幹細胞性獲得機序を解析し、治療抵抗性克服による標的治療開発を開始した。ICGC大規模全ゲノム解析により肝癌は6サブタイプに分類されたが、ARID2変異サブタイプでは全例が術後早期再発をきたす最も予後不良な特徴が報告されており(Fujimoto et al. Nat Genet 2016)、ARID2変異によるDNA修復異常、腫瘍変異負荷を標的とした革新的治療開発を進めている。 腫瘍変異負荷による宿主免疫相互作用の不均一性を解明するため、同系統マウス免疫応答性モデルにおいて肝癌クロマチン制御異常サブタイプを高効率ゲノム編集により構築する。変異負荷解析、RNAシーケンス解析を行い、腫瘍間質を構成する宿主免疫細胞をCIBERSORT(Newman et al. Nat Methods 2015)を用いた数理的deconvolutionにより明らかにする。腫瘍増殖に伴う変異負荷を段階的に解析し、宿主免疫相互作用の進化過程を解明する。我々はC57BL/6Jマウス由来の不死化肝細胞Cas9発現株を樹立し、Arid2及びArid1a変異ゲノム編集を既に導入した。DNA修復異常を確認し、同系C57BL/6Jマウスの皮下と肝組織に移植して同系統免疫応答性(syngeneic immuno-competent)腫瘍モデルを作製する。免疫チェックポイント阻害剤anti-mouse PD-1抗体治療の前臨床試験を行い、治療経過及び治療後の各段階の腫瘍変化と宿主免疫相互作用の変遷過程を解明する。さらに実際の臨床症例を用いた検証により、サブタイプ特異的治療法を確立する。 また高効率ゲノム編集技術を改良して、多重ノックアウト及びノックイン法を新たに開発し、生体内ゲノム編集への応用を進めている。抗腫瘍免疫作用が報告されたCTNNB1変異解析のため、exon skippingゲノム編集を構築済みである。本邦のトランスレーショナルリサーチを強力に推進する重要な研究課題である。
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