研究課題
慢性炎症性腸疾患関連発がんにおいて認められる分子生物学的異常を網羅的に把握するため,組織学的に関連大腸癌および異形粘膜と診断された病変より上皮細胞を三次元培養(オルガノイド培養)を行い,次世代シーケンスによる遺伝子変異解析,DNAマイクロアレイによる遺伝子発現解析を行った.炎症性腸疾患関連癌では通常型大腸癌とは全く異なる遺伝子変異プロファイルを有することが明らかとなり,その特徴としてAPC遺伝子変異が有意に少ない一方でKRAS遺伝子変異,TP53遺伝子変異が高頻度で認められることがあげられた.さらに,発がん母地である慢性炎症粘膜に認められる遺伝子変異をクローンレベルで同定するため,慢性炎症粘膜より同様にオルガノイドを樹立し,単一クローンを増幅した上でシーケンス解析を行った.その結果,慢性炎症粘膜クローンにおいて有意に獲得される遺伝子変異群を同定し,その多くは炎症シグナルに関与する遺伝子であった.これらの変異遺伝子群の有意性はオルガノイド樹立直後のポリクローナルな細胞集団を用いたターゲットリシーケンスにおいても確認された.そのうち特に高頻度で認められた遺伝子の機能解析のため,遺伝子編集技術を用いたノックアウトオルガノイドを作成し,培養下における炎症性サイトカインへの応答をターゲット遺伝子の定量PCRを用いて検討した.その結果,ノックアウトオルガノイドにおいてサイトカイン刺激への応答低下が認められ,炎症,再生を繰り返す慢性炎症粘膜においては遺伝子変異により炎症シグナルへの耐性を獲得したクローンが選択的に増殖していることが示唆された.
1: 当初の計画以上に進展している
オルガノイド培養技術を用いることで,これまで解析不可能であったヒト非腫瘍性組織クローンにおいて蓄積する遺伝子変異群を同定することが可能であった.正常組織を対象とした同様の解析は2016年のNatureに報告されているが,炎症組織を対象とした報告はなく,初の成果であるといえる.従来,慢性炎症粘膜における選択圧に関与する変異遺伝子はTP53とされてきたが,今回の我々の解析では関連癌において同遺伝子変異が有意に高頻度で認められた一方で慢性炎症粘膜においては確認されず,これまでの定説と異なる知見を得ることができた.さらに,生理的な持続的炎症下において優位性を付与する分子異常として,新規遺伝子変異を同定した.同一の遺伝子変異を遺伝子編集技術を用いて再現し,in vitroの機能的解析において炎症シグナルへの耐性を獲得することを明らかにした.これらの成果はこれまで不明とされてきた慢性炎症と遺伝子変異をはじめとした分子異常および発がんの関連の一端をgenotypeからphenotypeへと連続的に解明するものであり,多大なインパクトをもたらすと考えられる.
今年度同定した新規変異遺伝子群の有意性の検証のため,症例数を蓄積しより多くの慢性炎症粘膜クローンを対象に遺伝子変異解析を行う.また,発がんとの関連を検討するため,並行して関連癌,異形粘膜からのオルガノイド樹立,網羅的解析を行う.遺伝子機能解析としてin vivoの表現系確認が必要と考えられた場合,コンディショナルノックアウトマウスを入手しDSS腸炎モデルによる炎症像の変化,またDSS腸炎モデルにAOM投与を加えた発がんモデルにおいて発がんへのインパクトを検証する.
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件、 オープンアクセス 1件)
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