研究課題
●近年の泌尿器癌の増加は著しい。疫学的には『食事の西欧化』による高カロリー・高脂肪食の影響が示唆される。私どもの研究も含めて、この進展機序に、腫瘍微少環境における局所免疫が深く関与していることが示されている。本研究は、腫瘍微小環境における脂質、液性免疫因子、局所免疫細胞の包括的解析を行い、Adiposity亢進による腫瘍進展に関与する免疫微少環境関連標的分子を同定する。●脂肪酸結合分子4(FABP4)は脂質シャペロン分子で脂質代謝に重要な働きをするが、前立腺癌細胞と前立腺癌組織におけるFABP4の発現と前立腺癌細胞の増殖、浸潤能における機能解析を行った。FABP4はホルモン不応性前立腺癌細胞PC-3、DU145とその培養液において高発現、ホルモン感受性細胞LNCaPでは低発現であった。血清FABP4値は前立腺癌患者では健常者に比べて有意に高く、患者血清中のFABP4値はGleason score値と正相関がみられた。FABP4は前立腺癌組織にも高発現し、また前立腺癌と脂肪組織の境界面にも高発現していた。In vitroの検討では、PC-3、DU145細胞の浸潤能はリコンビナントFABP4の添加により有意に亢進し、FABP4 siRNA処理によって有意な低下が見られた。また、リコンビナントFABP4の処理によって、PC-3、DU145細胞でAKTとERKのリン酸化の亢進がみられた。よって前立腺癌細胞によるFABP4の産生と分泌は前立腺癌の進展を促進する可能性がある。●その他の研究として、高脂肪食によるmicroRNAの発現異常による前立腺癌進展を示した(論文業績参照)。また腎癌におけるAdipokine、インスリンパラドックスを説明できる結果を示した(論文業績参照)。また、前立腺癌に対する内分泌療法に伴う骨粗鬆が骨転移を促進することを示した(論文業績参照)。
2: おおむね順調に進展している
●本研究の目的は、腫瘍微小環境における脂質、液性免疫因子、局所免疫細胞の包括的解析を行い、Adiposity亢進による腫瘍進展に関与する免疫微少環境関連標的分子を同定することであるが、初年度に以下を示すことができた。●脂肪酸結合分子4(FABP4)は脂質シャペロン分子で脂質代謝に重要な働きをするが、前立腺癌細胞と前立腺癌組織におけるFABP4の発現と前立腺癌細胞の増殖、浸潤能における機能解析を行い前立腺癌細胞によるFABP4の産生と分泌は前立腺癌の進展を促進する可能性があることを示した(論文作成中)。●高脂肪食によるmicroRNAの発現異常による前立腺癌進展を示した(論文業績参照)。●腎癌におけるAdipokineやインスリン受容体の解析により、腎癌発症の肥満パラドックス(肥満は腎癌のリスクファクターであるが、進展に対しては、予防的に働く)を説明できる結果を示した(論文業績参照)。●前立腺癌に対する内分泌療法に伴う骨粗鬆が骨転移を促進することを示した(論文業績参照)。
以下の研究方法により、本研究目的を果たす。1) 前立腺癌発生系PTEN KO:PB-Cre4;Ptenflox/floxマウスを用いて、Adiposity亢進状況における、癌発症・進展における腫瘍免疫微小環境の影響や標的分子(特に脂質関連分子)を同定。2) 泌尿器癌腫瘍周囲の脂肪細胞の培養系を用いて、in vitroでのサイトカイン産生プロフィールを正常者(腎移植の腎提供者)の脂肪培養と比較し、腫瘍免疫微小環境に影響を与える分子を同定。3) 高脂肪食、高カロリー食における前立腺癌・腎癌のXenograft進展モデルを用いて、腫瘍の微小免疫環境における免疫細胞や液性因子の解析を行い、腫瘍進展に関与する免疫関連標的分子を同定。4) 分子疫学的手法によって候補分子の遺伝子多型・泌尿器癌進展や生活習慣との背景、臨床情報、臨床経過、治療効果(特に新規免疫療法)との関連を検証、臨床応用に繋げる。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 謝辞記載あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 4件) 備考 (1件)
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http://www.med.akita-u.ac.jp/~hinyoki/