研究課題
●本研究の目的は、腫瘍微小環境における脂質、液性免疫因子、局所免疫細胞の包括的解析を行い、Adiposity亢進による腫瘍進展に関与する免疫微少環境関連標的分子を同定することである。●ホスホイノシタイド(PIPs)は細胞膜を構成する微量リン脂質であり癌の進展をはじめ幅広い生命現象に関与する。我々は、これまで微量かつ測定の困難であったPIPsの新規測定系を確立し、前臨床モデルおよび臨床検体を用いて三連四重極質量分析計を用いた選択反応モニタリング法により定量測定し前立腺癌との関連を検討した。結果として、PNT-1Bにおいて、PTEN抑制はPIP3を有意に上昇させ、PTEN-KOマウス前立腺はPTEN-WTマウスに比較しPIPsの総量が有意に上昇し、飽和/単価不飽和脂肪酸を有するPIPsの割合が多価不飽和脂肪酸を有するPIPsに比べて有意に上昇した。さらにヒト臨床検体でも検討を加え、ヒト前立腺癌は前立腺肥大に比べPI、PIP1が有意に高値であり、PIP2が有意に低値、等の知見を得て、前立腺癌においてPIPsの脂肪酸飽和度が癌発症・進展に関与している可能性があることを示した(2020、Scientific Rep掲載)。●以前、私共は腫瘍進展に重要な因子であるmacrophage inhibitory cytokine-1(MIC-1)が高脂肪食下での前立腺進展に関わることを報告したが、2017年にMIC-1の受容体がGFRALであることが報告された(Nature 2017)。2018-19年には、このGFRAL/MIC-1システムと前立腺癌進展と癌免疫微小環境の解析を行い、高脂肪によって、前立腺癌細胞からのMIC-1の発現亢進、MIC-1が間質細胞を刺激し、IL-6やIL-8の発言を促進、結果として、前立腺癌の進展を促すことを見出した(投稿中)。
2: おおむね順調に進展している
以下のように、腫瘍微小環境における脂質、液性免疫因子、局所免疫細胞の包括的解析を行い、Adiposity亢進による腫瘍進展に関与する免疫微少環境関連標的分子に関する研究成果を上げているため、おおむね順調に研究が進んでいると判断した。2016年末には、高脂肪食による前立腺癌進展に数個のmiRNAの異常が関与していることを示し、発表した(Carcinogenesis. 2016 Dec;37(12):1129-)。2017年には高脂肪や肥満による腎癌の発生と進展にadiponectinが関与していることを示し、発表した(PLoS One. 2017;12:e0171615)。 2017年には肥満やメタボ、インスリンシグナルと腎癌との進展について、研究を進め、発表した(Oncol Rep. 2017;37:2929-)。 2017年には、脂肪代謝に関与するFABP4が前立腺癌進展に関与していることを示し、この進展に間質のサイトカイン産生とMMPが関与していることを示し、発表した(Oncotarget. 2017;8:111780-)。2019年には、微量リン脂質であり癌進展にも関与されるとされるホスホイノシタイド(PIPs)と前立腺癌進展に注目し、前立腺癌においてPIPsの脂肪酸飽和度が癌発症・進展に関与している可能性があることを示し、発表した(Sci Rep. 2019;9:13257)2020年には、前立腺癌の術前化学内分泌療法の予後を規定する因子として、腫瘍微小環境や細胞接触成長阻害、腫瘍免疫に関与するYAP1がキープレイヤーであることを示し、発表した(BMC Cancer. 2020;20:302)。
高脂肪食下の前立腺癌進展には全身性のサイトカイン惹起と関連伝達経路の活性化、免疫及び炎症がこの経路に重要であることがわかった。さらなる詳細な機序解明に向けて現在我々は特に腸内細菌叢異常に注目している。腸内細菌は全身性免疫応答と炎症性サイトカイン産生に重要な役割を果たしており(Schimer, Cell, 2016)、近年では炎症性疾患のみならず癌を含む様々な病態に関与することが報告されている(Thaiss. Nature, 2016)。癌と腸内細菌叢異常の関連に関する検討は非常に少なく、腸内細菌叢異常がどのような機序で前立腺癌増悪進展に関与するかは解明されていない。我々はすでに前立腺癌発生PTENノックアウトマウスやマウス前立腺癌allograftモデルにおいて動物性脂肪食では癌発症、腫瘍増大が加速することを見出している。また上記モデルでは糞便重量が低下し、血中エンドトキシン上昇とFirmicutes門細菌が上昇していることを確認しており、高脂肪食下前立腺癌発症・進展に腸内細菌叢が関与している可能性をpilot研究から見出している。以上より、我々は前立腺癌増悪・進展に対する、食事、腸内細菌、癌周囲微小環境(炎症・免疫)の3つのクロストークに注目している。飽和脂肪酸を含む動物性脂肪が腸内細菌叢変化をもたらし血中エンドトキシンや腸管での代謝産物を介して、全身性のサイトカイン変化を引き起こす。続いて、前立腺への局所免疫担当細胞の誘導およびそれに伴う癌微小環境の変化を引き起こし、前立腺癌発症・進展に関与すると仮説(図1)を立てている。本年はマウスモデルでこの可能性を検証し、細胞実験、ヒト検体を用いた実験で検証を行い、高脂肪食摂取下前立腺癌発症・進展機序解明と腫瘍免疫微小環境との関連を検討するとともに、便移植や標的分子阻害による癌予防、癌治療の可能性についても探索する。
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すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 8件、 オープンアクセス 7件) 学会発表 (5件) 備考 (1件)
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http://www.med.akita-u.ac.jp/~hinyoki/